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「金欠になるなら、尚更ちゃんとしたの買えよ。勿体ねえだろ」
駅に一番近いコンビニの明かりが、雨粒を反射させて、キラキラと輝いている。
光を感じて、有加も晴也ももう少しだと、安堵する。二人は、同じタイミングで大きめの水溜まりを軽やかに飛び越えた。
「よく考えてみてよ。金欠では、傘を買えない。傘は、富めるものにのみ、与えられたモノなの」
有加は、晴也の顔も見ずに、幼い子供に言い聞かすような、妙に優しい声色で言った。
どうにも悟ったような、晴也が間違っているような、鼻につく物言いだ。
「小遣い貰ったら、真っ先に買えよ! そして、真っ先に俺に金を返せ!」
晴也は、早口で言うと、二週間前にちょうど傘を買ってやったコンビニの前で、立ち止まる。
そして、有加の前へズイと掌を出して催促した。もちろん、有加から返ってくるなどとは、最初から思っていない。
有加は、体を震わせながら、晴也の顔を見真っ直ぐに見る。
「富めるものは、貧しいものに分け与えてよ!」
堂々と開き直ってこられると、さすがに腹が立つ。
「アホか!」
晴也は、キラキラと純粋な目で言い切った有加の額を叩く。軽く叩いただけで、ペチンといい音がなった。
有加は、痛い痛いと騒ぎながらも、有加の言い訳は続く。
「それにね傘って、すぐ、どっか行っちゃうんだよ。気が付いたら無いの。脚生やしちゃうんだよ。特に電車から降りたあととか、お店の傘立てに刺したあととか」
有加の忘れっぽさを露見させる物言いにに、晴也は、怒る気にもなれない。
「お前、忘れすぎだろ」
ただただ呆れ果てる。
「テヘペロ」
有加は、舌を少しだけ出して、お茶目を演出する。そんな有加をコンビニから出てきた客が、おかしなものを見るような目で見ていた。有加は、お構い無しに、今度はウィンクをして舌を出す。
「たくっ。そんなに無くすなら、分かりやすく名前書いとけ」
晴也は、ひょうきんな有加に、すっかり毒気を抜かれてしまった。
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