私の晴れ男

5/8
前へ
/8ページ
次へ
「え〜、なんかダサい」  有加は、しかめっ面になる。  その間にもコンビニへ客が出入りする。入店音が鬱陶しく、何度も聞こえてくる。 「心配しなくても、お前はすでにダセェよ」  店の迷惑にならないように晴也は、駅へと向かう。  すると有加が、唐突に晴也の腕を掴んだ。力を込めて、無言でコンビニを指さす。 「そっか……。ところでメシア。傘、買ってくれない?」  翌日の天気も予報通り。もちろん朝から雨だった。人々は、憂鬱そうに傘をさす。  恥ずかしげもなく、大声で自作の替え歌を歌う女子生徒は誰よりも目立つ。 「ピッチピッチ、チャップリンチャップリン、ランラン……らーん!!」  こんなことをするのは、有加しかいない。亜子は有加に追いつくと、今朝見た時から抱いた謎をぶつけた。 「何ソレ」 「あっ、亜子オハヨ。知らないの? 名探偵ドイル君の決め台詞」  通学路が、色とりどりの傘で覆われている。ダラダラと続く傘の行進に亜子は、嫌気がさす。  反対に今日の有加は、機嫌よく鼻歌交じりに、替え歌の元ネタを語る。  亜子は、話のすれ違いに多少の面倒臭さを感じた。 「あぁ、チャップリンの後のは、ドイル君だったの。そうじゃなくて、傘」  亜子は再度、短く尋ねる。有加は、意気揚々と応える。  コンビニの前を通る。今日も朝から、ひっきりなしに入店音が鳴り響いている。 「コレ? 昨日、新しいビニール傘、晴ちゃんに買ってもらったの」  有加は、ソコでと、付け加えてコンビニを指差した。亜子が視線を誘導され、コンビニの入口を見る。出入りする学生達は、好奇の目で有加を見ていた。有加は、何も気にする様子がない。  亜子は昨日、置いて帰った有加が幼馴染みと共に、帰ったことを有加の言葉で理解した。それでも、亜子の興味は、新しいビニール傘の出処ではない。 「そうじゃなくて、名前」 「コレ? 取られたくなかったら名前書いとけって、晴ちゃんに言われたから書いたの」  やっと、本題に入る。学校は、まだまだ先だ。傘の大行進が、有加と亜子の目の前に広がっている。 「それでなんで、天野くんの名前なのよ」  まずは、一つ一つ疑問を解こう。亜子は、有加の私物に、彼女の幼馴染みの名前が書かれていることを聞いた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加