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「え〜、なんかダサい」
有加は、しかめっ面になる。
その間にもコンビニへ客が出入りする。入店音が鬱陶しく、何度も聞こえてくる。
「心配しなくても、お前はすでにダセェよ」
店の迷惑にならないように晴也は、駅へと向かう。
すると有加が、唐突に晴也の腕を掴んだ。力を込めて、無言でコンビニを指さす。
「そっか……。ところでメシア。傘、買ってくれない?」
翌日の天気も予報通り。もちろん朝から雨だった。人々は、憂鬱そうに傘をさす。
恥ずかしげもなく、大声で自作の替え歌を歌う女子生徒は誰よりも目立つ。
「ピッチピッチ、チャップリンチャップリン、ランラン……らーん!!」
こんなことをするのは、有加しかいない。亜子は有加に追いつくと、今朝見た時から抱いた謎をぶつけた。
「何ソレ」
「あっ、亜子オハヨ。知らないの? 名探偵ドイル君の決め台詞」
通学路が、色とりどりの傘で覆われている。ダラダラと続く傘の行進に亜子は、嫌気がさす。
反対に今日の有加は、機嫌よく鼻歌交じりに、替え歌の元ネタを語る。
亜子は、話のすれ違いに多少の面倒臭さを感じた。
「あぁ、チャップリンの後のは、ドイル君だったの。そうじゃなくて、傘」
亜子は再度、短く尋ねる。有加は、意気揚々と応える。
コンビニの前を通る。今日も朝から、ひっきりなしに入店音が鳴り響いている。
「コレ? 昨日、新しいビニール傘、晴ちゃんに買ってもらったの」
有加は、ソコでと、付け加えてコンビニを指差した。亜子が視線を誘導され、コンビニの入口を見る。出入りする学生達は、好奇の目で有加を見ていた。有加は、何も気にする様子がない。
亜子は昨日、置いて帰った有加が幼馴染みと共に、帰ったことを有加の言葉で理解した。それでも、亜子の興味は、新しいビニール傘の出処ではない。
「そうじゃなくて、名前」
「コレ? 取られたくなかったら名前書いとけって、晴ちゃんに言われたから書いたの」
やっと、本題に入る。学校は、まだまだ先だ。傘の大行進が、有加と亜子の目の前に広がっている。
「それでなんで、天野くんの名前なのよ」
まずは、一つ一つ疑問を解こう。亜子は、有加の私物に、彼女の幼馴染みの名前が書かれていることを聞いた。
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