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子どもの頃は、雨の日が大好きだった。
葡萄に苺に檸檬。お気に入りのカラフルなフルーツ模様の傘と、それとお揃いの長靴を晴れた日でも身につけて、雨が降るのをひたすら待っていた。
ーー雨が嫌いになったのは、小3の時。
ピアノ教室へ向かう途中、傘で周りが見えなかった私は、いきなり腕を引っ張られるまで、背後から忍び寄る男の存在に気がついていなかった。
驚いて固まってしまい、連れて行かれそうになった私を見つけて、叫び声をあげて助けてくれたのは、同級生の男の子。
私は、その子に恋をした。
だけど、その子には好きな子がいて。
私の初恋は叶わなかった。
叫び声すらあげられなかった弱い自分を変えたくて、ピアノを辞めて空手を習ったら、
……声の代わりに先に手が出るような、そんな乱暴な性格になってしまった(たまに足も出る)。
あの雨の日から、何もかもがうまくいっていないような気がする。
そんなボタンをかけ違えた状態のまま、何年も何年もこんな残念な自分をもて余している。
ーーそして、あの日から、よっぽどの雨が降らない限り私は傘を差さない。
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