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「ありがとうございました」
昼過ぎから突然降りだした雨は、結局夕方まで止むことはなかった。
店の営業時間が終わる頃に、窓から外を見ると、そこでパステルピンクの傘が揺れていた。
「……来てるよ」
外の様子に気がついてない横の男の脇腹を軽く小突き、ちょいちょいと窓の方を指差すと、彼は途端に表情を曇らせた。
……あらら。
お疲れ様です、と急いで自分の荷物を纏め、彼女の元へ駆け寄っていく。彼女はふわりと笑いながら、彼に同じ色合いのブルーの傘を差し出した。
それを見た瞬間、また言い様の無いイライラが私を襲った。
「……まさか、ね」
そんなはずは無い。
今の状況でこのイライラが襲う理由を考えてしまったら、この感情に簡単に名前が付いてしまうから。
事あるごとに彼氏の職場に出向き、『彼は私の物よ』とでも言いたげに一緒に帰って行く彼女。
帰る場所が一緒なのも知っている。あの女が言っていたから。
同郷の幼なじみだか何だか知らないけど、まるで彼氏しか見えていない、ただひたすら狭い世界の中で生きている彼女。
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