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「すんげぇこんがり」  デビルズボアの丸焼きを見てレンは小さく呟く。  いくら火に耐性の無い獣とは言え、これほどまで完膚なきまで焦がしたなんて話聞いたことが無い。  過去に火属性魔法を使う人間と臨時パーティーを組んだことはあるが、せいぜい一部を焦がした程度だ。 「ふえぇ……気持ちわるぃ……」  その驚くべき火力を実演して見せた少女は、オーバーキルになるまで魔力を使った結果、魔力欠乏症、いわゆるガス欠になっていた。  魔力が完全に底をつくと、激しい眩暈と吐き気に襲われるらしく、それを知らなかった彼女は大盤振る舞いで魔法を撃ち放ったらしい。  ただ、そこまでしなければきっと殺し切れなかったはずだ。  後先を考えない少女に苦言を呈するべきか、それともよくやったと褒めるべきかとレンは苦笑いを浮かべた。  そしてハルトと言えば。 「お前何やった?」 「え?」  カリンとリンの二人を交えて会話をしていた。 「アンタ戦闘には参加してなかったわね?」 「ああ、うん。俺が戦っても死んじゃうし」 「でも、なんかやったよな。何をやった?」 「別に大したことじゃないよ? 戦いやすい様に整えただけ」 「整えた? どういうこと?」  リンは足元を指さし、草を掻き分ける。するとそこには見事なまでの平坦な地面が出来ていた。  先ほどからずっと凸凹して歩きにくいと言っていた大地が、ここだけ平坦なのはおかしいと感じたハルトはすぐに答えに行きついた。 「まさかお前」 「そ、生活魔法でここら一帯を真っ平らにした」  ケラケラと笑いながら「大変だったよ」と笑うリンにカリンとハルトは眩暈をおぼてた。  確かに生活魔法で地面を均す事は出来る。だがそれは精々術者から1メートルから2メートルだ。  だがリンのやった事は「この辺り一帯」だ。  どう見ても10メートルじゃきかない広さを持っている。  30……下手をしたら40あるかも知れないその範囲を、彼はあの短時間で均したのだ。 「……じゃあ、あのデビルズボアがこけたのは?」 「それは水の生活魔法と土の生活魔法の合わせ技」 「合わせ技?」 「そう、俺のいる足元見てて」  リンの言葉に従い注目すると、突然地面がぬかるんだのだ。沼とまではいかないが、足首が埋まる程だ。  リンはそこから出ると、泥で汚れた靴を清浄化で綺麗にした。 「どういうことだ?」 「いや、二人が「沼地で戦うよりましだ」って言ってたのを聞いてさ、もしかしたらって思ったんだよ。それで、地面を均す時は手を触れずに出来るのに、なんで水は手からしか出ないのかなって」 「はぁ?」  ハルトはリンの言っている意味が分からなかった。  この世界では水は手から出し、地面は触れずともできる。というのが常識であり、長い年月の間使われていた生活魔法の基礎なのだ。  それに対して疑問を抱く人間なんていなかった。  もし攻撃魔法であれば、威力や効率化の研究でいずれはその考えに至ったかもしれないが、生活魔法でそれを考える人間は間違いなくリンが初めてだった。 「だからさ、水も俺の出したいところに出せないかなぁって思った訳。スプリンクラーみたいに」 「すぷりんくらー?」 「あ~……えーっと、お水を撒く道具?」 「その、すぷりんくらー……がどうだってんだよ」 「それを使って水を撒くのと、地面を耕す土の生活魔法有るでしょ? それを魔物の足元でやった」 「……つまり、こういう事か? お前は、フレンジーボアの足元で即興の泥沼を作って足を滑らせたと?」 「そうそれ!」  正解! とばかりに親指を立てるリンにハルトは頭を抱えた。  確かに凹凸有った地面が平坦になり、一度快適さを味わった後、突然沼地のような地形に変わる。  そんな事をされたら、誰だって対処できず体勢を崩す。少なくとも動きを阻害する程度の効果は得られる。    ……だが、この少年は頭がおかしい。いや、悪口ではない。魔法の発想は天才的と言える。だが、やってることが既に高位魔法使いレベルだ。  どこの世界にレベル1で魔法を組み合わせて新たな事象を生みだす初心者居る?  そもそも魔法は一度に一つしか発動しない。先ほどのエリの様に一周類の魔法を大規模に発動する事は出来ても、別の属性を同時に使うというのは、過去一度も存在しない。  それが出来るとしたら固有スキルだけだ。  ここで改めてはっきりした。  リンの生活魔法は固有スキルだ。  この少年はそれを無自覚に使い、本来戦いで役に立たないそれを、戦況を大きく変化させる一手に昇華させた。  フィールドを制することは、戦いを制するに等しい。  森というホームで戦う魔物が強い様に、人間が戦いやすい様に場を一瞬で整えられるリンの能力は破格すぎる。 「ったく、お前は弱いんだか強いんだかよく分かんねえ奴だなあ」 「ほんとね。3人の中で一番厄介なんじゃないの?」  カリンは肩を竦めた。戦場で突然足場が悪くなる恐ろしさを彼女はよく知っていた。だからこそリンのやった事の凄さを肌で感じていたのだ。    だが二人はすぐに表情を綻ばせると、口を合わせて 「ありがとう(な・ね)」  と告げた。  その後エリーは魔力が枯渇してしまい、グロッキーとなった……と思ったのだが。 「お? おぉぉぉ?? 何か急に楽になったぞよ!?」 「エリ、どうしたの?」  先ほどまで力なく項垂れていた筈のエリが突然声を上げて体を起こしたのだ。  流石のユキも困惑した表情をしていたのだが、すぐに彼女にも変化が訪れる。 「な、なにこれ……え?」 「おー、来たか」  ハルトやウォードまでも笑みを浮かべながら自身の身体を見ている。どうしたのだろうとリンが首を傾げているとついに自身にもその変化が訪れた。  体の中心から手足などに向けて熱が広がる感覚。力強いエネルギーの胎動を感じた。  それは、これで2度目だが前回より格段に大きなものだった。 「これは……レベルアップ? でもなんでエリが急に元気になったの?」 「レベルが上がると魔力だけ回復するんだよ。体力とかは戻らねぇんだが最大値が上がった時に戻るんだ。理由は知らねぇが。その様子だとお前にもちゃんと入ったみたいで良かったぜ」 (なるほど、だからエリが急に元気になったのか) 「でも、いいのかな。俺足止めししかてないけど」 「十分貢献してるだろ。とりあえず見てみろよ。幾つになった?」  言われるがままにステータスを開く。もちろん簡易版でだ。 ―――――――― リン Lv8 体力:600/600 魔力:280/280 ―――――――― 「一気に8に上がってる」 「はは、晩成型はステータスの上りも悪いな。カリンが8の時は、体力と魔力共に1000近かったぞ」 「そうなの?」 「ああ、早熟型や万能型は能力の上昇の恩恵を早く受けるんだが、俺たちみたいな晩成型は20超えるまで、さほど上り幅に差を感じねぇんだ。俺も苦労したぜ」 「そっか、じゃあもうちょっと頑張らないとね」 「ああ、それでも攻撃とかその辺も上がってる筈だから、スライムみたいな雑魚は楽に倒せるはずだぜ。あとは地道に依頼を受けて行けばいずれ上がるさ」  ポンポンと頭を撫でられ「まあ、気張れや」と応援してくれる彼に頷いて答えるとエリとユキがやって来た。 「リンリン! レベルどうだった!?」 「なんだよリンリンって……俺はパンダか」 「ふふっ、かわいいわね」 「いや……そう言う事じゃなくてね? まあいいや、俺こんな感じ」 「どれどれ……おお~8か! これで戦いやすくなったかもね! 私こんな感じ!」 ―――――――― エリ Lv13 体力:1980/1980 魔力:770/770 ―――――――― (凄い上がってる。さっきまで同じレベル2だったのに差があるのはとどめを刺したからか?) 「私も上がったわ」  ユキも見て欲しいといって簡易型を表示して見せた。 ―――――――― ユキ Lv10 体力:2300/2300 魔力:680/680 ―――――――― 「ユキすごーい! レベルアタシより3低いのに体力上じゃん!」 「ふふ……でも魔力は負けたわ。頑張らないと」 「ふっふっふー、負けませぬぞー」  すると、数値を見たハルトが目を見開く。 「こりゃまじですげぇな。カリンもすごかったが、お前らの能力どうなってんだ。その辺の冒険者より高ぇぞ」 「へっへっへー、持ち得る才能って奴ですなー」 「調子に乗らないの」  コツンと、ユキに頭を叩かれるエリ。  ハルトも「そうだぞ」と注意をする。 (これまたすごい数値、俺の4倍近いぞ。……俺泣いちゃいそう)  リンが肩を落としていると、遠くでカリンが「おっ」と声を上げる。  なんだろうと皆がそちらを見ると、デビルズボアの死体の所で何やらごそごそとやっていた。 「ハルトーコイツ魔石持ちだったぞー」 「やっぱな! あれだけ強ぇーんだからあると思ったぜ! 等級は?」 「んー……4って所じゃない?」 「おっし! 久々の4等級ゲット!」 「魔石って何ですか? それに等級って……?」  ユキの質問にハルトが答える。 「ああ、知らないんだな。魔物には魔石っていう石を持ってるタイプとそうじゃない奴がいるんだ。こればかりは解体しないと分からないんだが、この魔石は様々な道具や武器に使われてて、冒険者ギルドで買い取りをしてるんだ。ちなみに等級ってのはその品質の事で上が1下が10って感じだ。10とかだとゴブリンとかで小指爪程度なんだが、4等級だと……」 「ほら」  丁度魔石を持ってきたカリンがハルトに差し出す。  それはソフトボールほどのかなり大ぶりな塊だった。紺と紫の中間程の色合いで、かなり透明度の高い石だった。  ゴロンとしたそれを差し出して、触ってみるかと聞いてきた。  せっかくなのでとリンたちは受け取ると。その魔石はひんやりと冷たく、意外と軽い事が分かった。  風呂場などで見る軽石のような意外性に、絵里は若干興奮気味でユキもなにやら興味津々と言った顔だった。  魔石を返すと、ハルトがアイテムボックスに仕舞う。 「よし、エリも回復したみたいだし、村に向かうぞ。ついでにこんな近場にデビルズが出たって事を伝えておかねぇと。おらっ、さっさと出発だ!」  意気揚々と前を進むハルト。  その後を追ってリンたちは再び村へと歩を進めるのであった。
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