450人が本棚に入れています
本棚に追加
真っ白な空間。
だれ1人いない空間に立っていた。
凛太朗は何が何だかわからず、ひたすら周囲を見回すが、壁も無ければ床もない。扉らしきものも見当たらない。
ふと思い出した。
(ラノベの導入ってこんな感じだよな)
場違いながらもそんな事を考えていると、目の前に突如として光が現れた。
真っ白な空間に光という時点で、かなり見えにくい訳だが、なぜか凛太朗にとってそれがそこにあるとハッキリわかる。
「……なにこれ」
「初めまして」
「うわ!? 喋った!?」
突然の声に驚きの声を上げると、光からクスクスという笑い声が聞こえた。
「失礼しました、私リーンの女神です」
「は、はぁ……」
「突然で非常に申し訳ないのですが、凛太朗さんは勇者召喚に巻き込まれてしまいました」
女神と名乗る光――面倒なので光の女神と呼ぶことにした――は淡々と話を続ける。
いまいち理解の追い付かない凛太朗だが、先ほど考えたラノベの導入と見事に合致していしまい、驚くほど落ち着いて聞いていた。
(つまりこれは俺も異世界で生活する流れか?)
「ええ、そうなります」
心の中で考えた問いにすら光の女神は、相槌をしてくれた。
「心まで読めるんですね」
「ええ、女神ですからね。生きているすべての人は無理でも、この空間に居る人であれば問題なく読めますよ」
「えっと……じゃあ、質問いいですか?」
恐る恐る手を上げてみると、光の女神はすぐに応じてくれた
「まず、この後俺はどうなるんですか?」
「私の統括する世界、リーンというんですが、そこに行くことになります」
「それは勇者召喚した人の所……王様とかの場所に?」
「いいえ、違います」
意外な答えに、凛太朗は少し首を傾げた。
(勇者召喚と言えば、国家権力を持つどこぞのお偉いさんが長い時間をかけて行う、一世一代の儀式のはず……少なくともラノベではそうだった。なのに俺は召喚した場所ではない?)
腕を組んで悩んでいると、光の女神が順を追って説明をし始めた。
まず、勇者召喚されたが呼ばれていたのは教室に居た別の男子であると。
世界を超える召喚の影響で、その個人のみを呼ぶ事は出来ず、勇者を中心に呼ぶのが勇者召喚の条件らしい。
そして勇者から離れている人物であった凛太朗と他数名の生徒は、転送途中で弾かれ、各地に散ったとの言う。
「そんな……そうだ、兵頭さんと大久保さんは!?」
直前に彼女たちが近くに居た事を思い出し、聞くと光の女神は大丈夫と告げる。
「貴方が光に包まれたとき、二人を捕まえた事で一緒の場所に飛ばされました。目が覚めたら近くに居ると思います」
「よかった……あれ、でもなんでそんなことしたんだ?」
確かに自分で彼女たちの手を取ったのは覚えているが、今更考えると何故そんな事を咄嗟に思いついたのか不明だ。
「ふふ、最初に心配するのがお友達なんて優しいんですね」
「い、いや……だって、異世界なんて分からない場所に何の力もない俺たちが放り出されたらって思うと」
(ラノベの主人公は特別な力を宿すけど、今の俺を見てもそんな様子は一切ない。そんな状態で放り出されたどうなるかなんて火を見るよりも明らかだ)
凛太朗はオタクではないが、小説が好きだった。
その過程でライトノベルを読む事になり、最も今好きなのが異世界転移や異世界転生ファンタジーだ。
そう言ったの大半は、無双をする主人公バージョンと、巻き込まれ系主人公に分かれる。
少なくとも今現在凛太朗は後者である。
そのうえ主人公とは今のところ言い難い。
イベントの一つ「白い空間で女神と会う」というのはこなしているが、まだこれだけだ。
「安心してください。召喚された勇者を含め、凛太朗さんたちには各々特別な力が目覚めています」
「おお」
思わず声が漏れる。
「詳しい事は時間が無いので省きますが、目が覚めたら指で丸を描いた後その中央を押してください。それで何ができるか見えますので」
「あ、そこは「ステータス!」とかじゃないんですね」
「ええ、残念ですが。向こうにはステータスという言葉は無いですから」
「なるほど」
凛太朗が納得すると、僅かに視界がぼやけるのが分かった。
「どうやら目覚めるようですね。私から干渉はもうできません。あとは皆さんのお好きになさってください」
「ま、まって! 俺たちは元に戻れるんですか!?」
「……」
必死に叫ぶと、光の女神から否定という雰囲気を感じた。
なにより、出来るのであれば答えるはずだ、沈黙はそれ自体がそれが明確な答えだった。
唖然とする凛太朗に、遠くなる声で女神が告げる。
「貴方達は自由です……誰に縛られる事なく、幸せになってください。どうか……貴方達だけでも」
どんどん遠くなる言葉だったが、凛太朗にはなぜか悲しそうに聞こえてしまった。
それ以上凛太朗は言葉をつづける事が出来ず、ひたすら遠ざかる光を見つめていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おきてください」
ゆさゆさと体を揺すられる感覚が襲う。
「う……」
「ひがさー、おきろー!」
「うわ!?」
耳元で大声が響き思わず飛び起きる。
ジタバタとしながら体を起こすと、体の節々に痛みを覚えた。
「いたた……」
「目が覚めましたね。良かったです。ずっと揺らしても起きないので」
声のする方を見ると、そこには両膝をついてこちらを覗き込む兵藤の姿があった。
綺麗な瞳と、ぷるんとした艶のある唇が目の前にあって思わず言葉を失う。
「それよか、これ見れよ! 日傘!」
そう言って凛太朗の頭をベシベシと叩きながら四方を指さすのは大久保の姿だった。
「あ、大久保さんどうし――」
言われるまま周囲を見て言葉を失った。
右見ても左見ても草、草、草の見事な草原なのだ。
遠くに森やら山などが見えるが、人工物らしいものがない。
「なに、これ」
「分かりません。目が覚めたらここに居ました。他のクラスメイトも見当たりません」
「え!?」
立ち上がってみるが、確かに居るのは自分たちだけ。
その時、凛太朗は先ほど見ていた夢のような内容を思い出した。
「……まさか、嘘だよな?」
「どうしたんですか?」
「日傘?」
二人がこちらを伺いながら凛太朗を見る。
答えずに指先で円を描き、その中央を突く様な動きをすると、指先に何かが触れた感触を感じた。
「――ッ」
「なにやって、うわ!?」
凛太朗と大久保のリアクションはほぼ同時だった。
突然、目の前に半透明のウィンドウが開いたのだ。
横20センチ、縦30センチほどのウィンドウにこのように書かれていた。
――――――――――
日傘 凛太朗
16
称号:巻き込まれし者・女神に救われし者
Lv1
体力:200/200
魔力:150/150
攻撃:20
防御:15
精神:10
速度:20
器用:30
運 :100
スキル:◎フリマLv1 ○生活魔法Lv1
――――――――――
「は?」
真っ先に漏れた感想がこれである。
ステータスが表示された喜びは勿論あった。
しかし、視線を下ろして行きついた先で表情が一気に落胆に変わる。
「フリマってなに?」
横からのぞき込んでいた兵藤が不思議そうに凛太朗を見つめていた。
ただ残念ながら、その質問に答えを持つ人が居ない
異世界に来て不思議な能力に目覚めたかと思いきや、数値は低い。
一般人の数値がいくつかは不明だが、少なくとも超人ではないのは間違いない。
そして極め付けには「フリマ」という意味不明なスキル。
パッと見「プリマ」に見えて一瞬「ソプラノ歌手」かと思ってしまったくらいだ。
(えぇ……これ、マジで何?)
「なになになになに!? 日傘って超能力者だったわけ!? なにそれ! どうやったの!?」
「ちょ、大久保さんちょっとまって? ね?」
「ねえねえ! 教えてよ! ねえ!」
「絵里落ち着いて。日傘君もちゃんと教えてくれるでしょうし」
「うん、ただ心の整理というか、あまりにも意味が分からな過ぎて混乱してるので待ってほしいっていうか」
目を輝かせて質問攻めする大久保と興味深そうにこちらを――いや、ウィンドウを見る兵藤の姿だった。
草原の中央で、凛太朗は自らに芽生えた意味不明なスキルに打ちひしがれるのであった。
最初のコメントを投稿しよう!