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結局二人の興味と興奮は、自分のステータス――とりあえずそう呼ぶことにした――を見るまで落ち着く事は無かった。
大久保は自身のステータスを見るなり大興奮で「マジでゲームみたいだ!」と叫び、兵頭は静かにウィンドウを見つめながら「ゲーム? じゃあ、これはゲームなの?」と少しばかりズレた質問をしていた。
流石に埒が明かないと思った凛太朗は二人に夢に見た内容を伝えて見る事にした。
彼女たちも似た夢を見たか気になったのだ。
結果、まったくの収穫無し。
二人はそんな夢知らないと答え、不思議そうに凛太朗を見つめるばかりだった。
「えっと……つまり、日傘君は夢の中で女神さんに会って、このステータス? の見方を習った訳ね?」
「うん、俺の思い違いや、夢とかじゃなければここはあまり平和な場所じゃないと思う」
「えー? だって、こんな長閑な草原だよ? ドッキリとか言われた方が真実味有るけど?」
大久保は半信半疑と言った様子で凛太朗を見る。嘘をついてるとまではいかないが、信用しきれないといった雰囲気を感じる。
すると須藤が彼女を諭すように間に入った。
「待って絵里。だったら、貴女のスキルにあった身体強化や、私の槍術はどう説明するの? 少なくとも平和な場所ならそんな物騒なのいらないんじゃないかしら」
大久保はその言葉に考え込む。
実の所、彼女たちは自身のステータスを確認した際に攻撃系のスキルを複数持っていた。
それがこの世界でどの程度珍しいのか不明だが、存在する以上使いどころがある筈、と兵藤が語った。
「うー……確かに。それに気を失った私たちを草原にほっぽり出すドッキリとか悪趣味すぎるもんね」
(よかった……とりあえず信じてくれそうだ)
胸をなで下ろしていると、須藤が凛太朗を見る。
「日傘君はどうすべきだと思う?」
「え? 俺?」
まさか成績優秀な須藤が自分に方針について聞いてくるとは思っていなかった凛太朗は、間抜けなリアクションを返してしまった。
「日傘君、この状況で一番落ち着いてるもの。見た事ない場所にステータスなんていう不可思議な物、それに浮かれてる絵里を落ち着かせる慎重さ。たぶんこの中で一番現状把握できてると思うの」
(いや……そこまで考えられる須藤さんも中々だと思う)
凛太朗は前もって女神からの通告があったから、ラノベなどの知識を総動員してるわけだが、彼女はそれが無い。
いきなり放り出されたはずの彼女が冷静に、凛太朗を選んだ時点で彼女がいかに優秀なのかが伺えた。
「で、どうかしら」
「えーっと、俺の考えが正しいか分からないって前提で話すけど、いい?」
「もちろん」
「アタシもファンタジーは好きだけど、ゲームしか知らないし」
大久保も同意をした。
ならばと凛太朗は様々な可能性を考慮した今後の方針を語った。
まず、自分たちが異世界に来た可能性。
そしてそれが事実であれば、素性を隠す必要がある。具体的に言えば、服装を早い段階で変えて場に合うものにすることで目立たないようにする。
次に、名前を変える事。
異世界物は大半苗字を持つのは貴族位だけだ。
下手に苗字があるとバレれば、勘繰られて身代金目当てに攫われる可能性があるということ。
そして、大きな街に入る前に、どこか小さな村でもいいから情報を集める事。いきなり都会のような街を見つけて入っても、何も知らなさすぎると怪しまれる可能性があるからだ。
並行して、自分たちのステータスを良く調べて、安全の確保をすること。
「ってくらいかな」
ざっと、思い付き限りを並べた凛太朗は二人の様子を見る。
すると大久保は目を見開いたまま固まり、兵藤は小さな手帳でメモを取っていた。
一通りメモを終えると、兵藤は頷いてから胸ポケットにしまった。
「やっぱり日傘君に聞いて正解だったわね。ここまでしっかりとした方針をとれるなんてすごいわ」
まっすぐな瞳で褒められた凛太朗は、思わず顔が熱くなり顔をそむけてしまった。
そのむけた先には、なにやら目を輝かせる大久保の姿があった。
「すっごい! 日傘って頭いいじゃん! いつも教室の端っこで静かにしてるから、ちょっと地味って思ってたのに!」
「じ、地味なのは間違いないけどさ、酷いよ」
「あはは、ごめんごめん! でもこれで決まりだね!」
手をぱちぱちと叩く大久保の姿に、凛太朗は僅かに嫌な予感を感じる。
「絵里? どういうこと?」
「リーダーよ! り・い・だ・あ! ファンタジーと言えばパーティーでしょ! だったら、日傘にはアタシたち三人のリーダーやって貰おうよ!」
「ちょ!?」
「……いいかもしれないわね。少なくとも、私よりは正確な判断できそうだし」
「兵藤さん!?」
(待ってくれ! いくらなんでもリーダーなんて柄じゃない! 俺はただラノベの知識でやってるだけなんだ!)
必死に弁明をしようとするが、兵藤によって遮られる。
「とにかく、それは後にしましょ。街頭の無いこんな場所で夜になったら大変よ」
「あ、そうだね! じゃあいこうか! リーダー!」
「まって、俺がリーダーなのは決定なの!?」
こうして、三人の少年少女たちは歩き出す。
見知らぬ草原、リーンという世界を。
これから起こる様々な冒険に向かって。
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