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高宮結城
今日もクラスでもめ事が起きたから、仕方なく場を納めてやった。
畠中や田淵には困ったもんだ。協調性ってものが無い。
かくいう俺もノートを取れていなかったのだが、代わりに大久保さんが怒った。内心同意したい気持ちもあるが、女の子が不良に絡むのは頂けない。怪我をしたら大変だ。
「まあまあ、絵里もそう怒らないでよ。彼だって悪気があったわけじゃないだろ?」
そう間に入って場を取り持つ。
すると大久保さんは、仕方なしに矛を収めてくれた。
去り際にちょいと角の立つ言い方をしていたが、まあ、彼女も子供だという事だ。ここは俺が大人になって納めるしかない。
ちょっと揉めてしまったが、大久保さんは兵藤さんにノートを借りる方針に変えたらしい。……俺も、借りに行こうかな。別になくても勉強は平気なんだけどね、でもノートに変な空白あるのって気持ち悪いしね?
……うん、変な言い訳はやめよう。
正直言えば、兵藤さんにちょっとお近づきに慣れたらなって思う気持ちがある。
彼女はすごく綺麗だし、頭も良い。それに優しいから……。
そんな事を考えているとこんな会話が耳に入った。
「さっき、畠中君がメモを取れてないって言ったでしょ? 良かったら一緒に写す?」
えっ、と思い視線を向けるとノートを持った兵藤さんがクラスメイトの日傘の所に居た。
なんでという気持ちと一緒に、何となくもやもやした気持ちが湧き上がる。
完全にタイミングを逃した俺は、睨み付けるような思いで舌打ちをしてしまった。
静かな教室だったのでやけに響いてしまう。
しまったと思い、何事もない様にノートに向かった。
当然手は動いていない。
近くの席では先ほどのやり取りで苛立っていた畠中が藤井に八つ当たりをしてる。
うるさいな。静かにしろよ。
そんな思いで毒づいていると、突然教室が光に包まれた。
「なんだったんだ?」
眩しさから解放された俺は目を開けると、そこに信じられない物を見た。
そこは教室ではなく、石造りの壁……強いて言うなら剥き出しのコンクリートの壁と言った感じの場所だった。
よく見れば、クラスメイト数名がそこに居た。先ほどの騒動の畠中達もいる。
……兵藤さんは居ない、か。
それにしても窓もなく家財もない。俺たちの周りには四つの蝋燭が飾られていて、足元を見ると……これは魔法陣?
いまだに淡い光を放つ、ゲームで見る様な魔法陣が浮かび上がっていた。
そして、俺たちを囲むようにローブを来た男性が十人位いて、他にも兵士っぽい恰好をした人がたくさんいる。
なにこれ、ドッキリ? それともコスプレ?
「おお、ついに成功したぞ!」
急に湧きたつ。
周囲の人々は笑顔を浮かべ、何やら喜んでいる。
すると、一人こちらに近づいてくるに気が付いた。
その人物を見て息を飲んだ
信じられないくらいの美少女。金髪碧眼で顔がすごく小さい。
おまけに手が細い。
来てる服は……ドレスか? ピンク色のふわふわしたそれがすごくかわいい。
その子は俺の前に到達すると、漫画なんかで見るドレスをちょっと摘まんだお辞儀をした。
そして彼女は澄んだ声でこう言った。
「お待ちしておりました。勇者様」
それからいろんなことを聞いた。
ここは地球じゃないらしい。信じられるわけがない。俺たちは勇者として異世界に呼び出されたという。
この国は魔族に侵攻を受けていて、どうか助けてほしいとの事だ。
当然クラスメイトのみんなが混乱して、その中に居た畠中が先ほどの女の子に食って掛かった。こいつ、見た目が弱そうな奴にしか強気になれないから気に入らない。
「まあ待ってよ畠中君、とりあえず話を聞こう?」
「高宮は黙ってろよ! 俺は今こいつと話を――」
怒りに任せて胸ぐらを掴んでくる畠中。俺はその腕を取り捻りあげる。こう見えても俺は父親に空手を習わされてた。この程度の脅しじゃ何も怖くない。
……ただ、なんだかいつもより力が要らない。まるでドアノブを捻るみたいにあっさり――。
ボキッ。
「あぎゃああああ!」
なんだ今の感触。気持ち悪い感じがした。
見ると畠中が腕を抑えてうずくまっていた。見るとその腕は肘から中頃辺りで変な方向に曲がっていた。
「え」
まさか今ので折れたのか? 俺はただ、ちょっと捻っただけなのに?
チラリと見るとクラスメイトも何が起きたか分かっていないようだ。
いつも俺の周りをついてくる女子たちが、ぼそぼそと会話をしている。
「今何かした?」
「わかんない。畠中が高宮君に掴みかかったら急に蹲った」
「だっさ」
どうやら今のは彼女たちから見えなかったみたいだ。
畠中の仲間の田淵や加賀美も良く分かっていない顔をしている。そして藤井はなにやらうつむきがちでニヤニヤしている。……気持ち悪いな。
すると畠中はこちらを、冷や汗と脂汗を浮かべながら見上げる。
「て、めぇ……よくも――」
「まあ大変! 皆さん彼を治療して差し上げて!」
畠中の言葉を被せる様に、先ほどの少女が周りに居る人々に指示を出した。
「ハッ!」
すると畠中はローブの人々に囲われ、何やらされている。
すると、緑の光が起きたかと思うと、彼の腕はあっという間に元通りになってしまった。
ただ、別のローブがボソボソと呟き、白い光を生み出すと、畠中は眠ってしまった。
「どうやら彼は疲れているようですね。とりあえず、この場に居る皆様に説明を続けさせてもらいたいと思います」
この美少女の名前は、アリシア・ミュール・フォン・アースガルド。現在いるアースガルド王国という国のお姫様らしい。
彼女は王家に伝えられる秘術、勇者召喚の儀式を用いて俺たちを呼んだ。
そして彼女は驚くべき事を伝えた。
「皆さま、このように指を動かしてくださいませんか?」
アリシアはそう言うと指先で丸を書いて、その中央をチョンと突いた。
すると突如アリシアの前に半透明のウィンドウが現れた。
俺を含めクラスメイトのみんなは一気にざわついた。
いくら科学技術が進歩した日本でもこんなの見た事ない。
最近じゃARなんてものもあるって聞いたけど、これはそんな物じゃない。
「こちらは自分の力を目視できるようになる方法です。皆さまもできるはずですので、どうぞ」
皆困惑気味だ。
俺はごくりと唾を飲んで、先ほど見た通り指を動かす。
すると最後の動作の時、指先に何かが触れた。
何もない空中なのは間違いないはずだ。
――――――――
高宮 結城
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称号:勇者
Lv1
体力:1000/1000
魔力:700/700
攻撃:600
防御:500
精神:530
速度:500
器用:600
スキル:◎神速剣Lv1 ◎龍撃破Lv1 ○全属性適性Lv1
――――――――
「なんだ……これ」
思わず言葉を失う。
見るとクラスメイト達も似た状態らしい。
「まあまあまあ!」
いつの間にか近くに来ていたアリシアが覗き込んでいた。
うう、なんかいい匂いする。
「お名前を伺ってもよろしいでしょうか!」
アリシアは俺の両手を取ると、キラキラした瞳でこちらを見る。
心臓がバクバクしながらもなんとか冷静に答える事が出来た。
「高宮……結城」
「タカミヤユウキ様ですね! なんて素敵な名前、流石は勇者様ですわ! ステータスもすべて500以上……まさに超人です!」
「そうなんですか?」
「ええ! 一般男性の数値が10から20と言われておりますので、ユウキ様の腕力は単純計算でも25倍です! まだレベル1なのに素晴らしいです!」
アリシアが大声で褒めてくれる。周りにも俺のステータスが知られてしまう。
それに思わず俺は照れてしまう。こんなかわいい子に褒められるのはすごく嬉しい。
「アタシ100くらいしかないよー」
「アタシなんてまだ60よ? 高くでもギリ100行かないくらい」
「やっぱ高宮君スゴわ。でも、あの子近すぎない?」
そんな女子の声が聞こえて来る。どうやら俺の数値は普通よりかなり優れてるらしい。クラスメイトのみんなが驚きやら羨望の眼差しを向けて来る。
「まいったな……目立つつもりは無いんだけど」
「ああ、失礼しました。私が勝手に言いふらす形になってしまいまして……ごめんなさい」
しょんぼりとした様子でアリシアが謝罪する。俺は慌てて彼女を慰める。
「いや、気にしないでください。いずれ知れ渡っていた事なんですから……」
「ああ、なんてお優しい……」
潤んだ瞳でこちらを見て来る。凄くかわいくて心臓がバクバク言っている。
するとハッとした様子で、周りを見て慌てて離れる。
「そ、その……勇者様にこんな所で立ち話なんて失礼しました。どうぞこちらへ」
近づき過ぎた事を恥じらうようにして距離を取る。奥ゆかしい性格をしてるんだろう。
次の瞬間、道案内の為に彼女は俺の手を引いた。
「ああ、そちらの従者の方がもご一緒にどうぞ」
従者という言葉に数名の男子がムッとした顔をするが、先ほどの畠中の思い出したのか黙ってついてくる。
「俺ってそんなに凄いの?」
「はい、ユウキ様は我が国の希望です!」
彼女のその言葉に、俺は言い知れぬ喜びを感じていた。
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