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 その後、自分の手荷物を確認すると勉強するために取り出していたエリとペンケースと、ポケットに入れっぱなしだったスマホや財布のみだった。 (スマホのバッテリー残量は後80%……まあ、通話ができる訳でもないけど、一応大事にしておこう) 「それにしてもさー」 「ん?」  突然歩いてるとエリが声を上げた。  ちなみに、何故大久保という呼び名から急にエリに変わったかというと、以前凛太朗が語った「名前を変える」という点で、急きょ変更した結果である。  ちなみに大久保絵里はエリ、兵藤由紀はユキ、そして日傘凛太朗はリンである。  何故凛太朗はリンの二文字かというと、ステータスの名前を触ったところ五十音キーボードのような入力画面が出て、咄嗟に名前を打ち込んでいたらエリに「なにやってんの!?」とこれまた大きな声で話しかけられ、リン、で入力決定してしまったのだ。再度試したがそれ以降入力モードにはならず調整不可となった。  それを踏まえて、二人は慎重にエリとユキに変えたわけだが。  その後、リンはふたりを「エリさん、ユキさん」と呼んでいたのだが二人が堅苦しいのはやめようという事になり、呼び捨てる事になった。  ユキはリンを「リン君」と呼ぶのだが、まるで駅前で別れを惜しむラブラブカップルが「○○君」「○○ちゃん」みたいな呼び方に他意はないとわかっていても、嬉しいような恥ずかしいような非常にむず痒い気持ちだった。    話は戻ってエリが続けた。 「なんでアタシとユキには運のステータスないんだろうね」 「ええ、気になるわね。私たちが可笑しいのか……それともリン君のステータスが特別なのか、いつか調べたいわね」  エリとユキの二人が話しているのは、凛太朗のステータスについてである。  実はゆっくりと歩きながら互いのステータスを見比べてみた結果、あからさまに違う点があった。  それは「運」のステータスの有無である。  ――――――――――  リン  16   称号:巻き込まれし者・女神に救われし者  Lv1  体力:200/200  魔力:110/150  攻撃:20  防御:15  精神:10  速度:20  器用:30  運 :100  スキル:◎フリマLv1 ○生活魔法Lv1  ――――――――――  ――――――――――  エリ  16   称号:リンに救われし者  Lv1  体力:800/800  魔力:270/300  攻撃:200  防御:100  精神:110  速度:400  器用:100  スキル:◎身体強化 ○体術Lv1 ○火属性魔法Lv1 ○風属性魔法Lv1  ――――――――――  ――――――――――  ユキ  16   称号:リンに救われし者  Lv1  体力:900/900  魔力:430/450  攻撃:420  防御:100  精神:350  速度:350  器用:500    スキル:◎治癒魔法Lv1 ◎槍術(鬼才) ○体術Lv1  ―――――――――― (……うん、なんていうか、俺ってば超弱い)    ステータスを互いに開示した時の何とも言えない空気。意気揚々と皆に現状の危険性を訴え、身辺の注意をするよう訴えた本人が一番身を守れそうにないという現実。  リンはひそかに涙を流しそうになった。  流石のエリもまずいと思ったらしく明るく場を取り持ってくれたので、悲しい結果にはならなかったが思い出すたびにリンの心は荒んでいく。 (女神さま……どうせならステータス一個くらい伸ばしてくださいよ)  ついでに言えば、フリマについても。と心の中で付け足した。 「でもそれを言ったらこの称号も気になるわ。リン君は「女神に救われし者」なのになんで私とエリは「リンに救われし者」なのかしら? リン君はなにか心当たりある?」  そこでリンはハッとする。  夢――と言っていいのか不明だが――で、女神が言っていた。  この世界に呼ばれたとき呼ばれた勇者以外は、転送時に弾かれたと。  そして、光に包まれたときリンが彼女たちの手を握っていたから同じ地点に到着できたのだとも。  その事をリンが伝えると二人はそれぞれのリアクションを見せた。  エリは「そっか、ならユキと離れ離れにならなかったのはリンのお陰か。ありがとね」と非常にあっさり。  対してユキは「それにしてもその女神の夢、なんで私たちは見ないのかしら? やっぱりリン君には、ステータスの件といい何かあるのかしら」と考え事をしていた。  また、ステータス関連でいくつか分かった事なのだが、一番下にあるスキルは使おうと思えばいつでも使える事が分かった。  エリの身体強化は、発動を念じると筋力、体力などの一部が跳ね上がった。これに関してはステータスを見ながら確認した。また一度の発動で効果は十分。すると魔力の数字が僅かに減っていた。  どうやら一度の使用で減る分も決まっていたらしい。  ちなみにリンのフリマというスキルに関してはおよそ一時間程頭を捻った結果、何とか使用できた。  時間はさかのぼる事三時間前。  皆スキルについて談義をしながら、道なき道を歩いていた。  その時、既に名前を変え終えていたリンはスキルについても考察していた。考察と言ってもシンプルな事だ。 (これ……どう使うんだ?)  エリの身体強化はともかく、ユキの持つ槍術はまさにそのまま、槍を持って戦う技術だ。  つまり槍を使った動きの際に勝手に発動する筈とリンは考えていた。だが、自分のスキルに関しては一切思いつかない。フリマとパッと思いつかない。  フリマから始まるスキルなどあるだろうか。戦闘系なのか補助系なのかすらわからない。せめて説明文が出てくれたらありがたいのだが、それらしいものは無い。  ならばと思い、ステータスを表示し指先でちょいとフリマの欄を触る。  するとウィンドウが切り替わった。  鮮やかなオレンジ、背景にフリマという文字が永続的に流れている。まるでどこかのウェブサイトのようだ。そして中央には【投入してください】と表記されている。  エリもユキも不思議そうに眺めるが、答えは出ない。  皆一様に同じものが見えているようで、リンだけというわけでもなさそうだと判断すると次の問題に行き当たる。  投入と言われればコインかと思うが、どこにもコイン投入口は無い。ポケットに入れっぱなしの財布を取り出してみたが、どこへ入れたものかと悩むばかり。  突然エリは、リンの口に金を放り込むが、何一つ変わらない。  吐き出された十円をみて彼女は「あげる」と、なんとも慈悲深い言葉を投げかけた。リンは泣いた。  しかし画面には【投入してください】と出続ける。 「リン君試しにこれ入れてもいいかしら」  ユキがそう言って取り出したのは一本のペン。 「え? ペンを? どこに?」 「この画面じゃないかしら?」 「なんでペン? っていうか画面?」 「お金入れる場所が無いし、別の物を入れるのかなって……流石に、リン君の口にこれを入れるのは悪いし……」  その言葉を聞いてリンは心底ほっとした。いくらユキが美少女とは言えその子のボールペンを口に入れるほどの上級者になったつもりはリンにはないのだ。  まあ、やるだけならばとリンは了承してウィンドウをユキの方へ差し出す。  この時点でウィンドウの扱いには十分慣れた物で、自分の手が届く範囲ならば、自在に動かせることが分かった。  リンとエリは困惑気味ながらも眺める。  ユキが恐る恐るペンをウィンドウに向かって落とすと。 【ボールペン(使用)】と表示された。  勿論、画面の裏側から落ちてもいない。  まさかの結果にリンもエリも唖然。言い当てた当の本人は僅かに嬉しそうである。  すると画面に変化が訪れた。  【投入を続けますか? yes/no】  とりあえずここはnoを選ぶ。すると画面に様々な道具の画像が浮かび上がった。  並び出るのは食料や衣類、更には金品までがずらりと並ぶ。  まるでインターネットで買い物をする画面そっくりである。  そして画面右下には【残り200.000】と出ている。 「え……これ、もしかしてお金?」 「でもボールペンだよ? それだけで20万とかありえる?」  エリも困惑している。先ほど無遠慮に他人の口へと金を放り込んだ少女とは思えない。リンは困惑した。  ユキは興味津々に食い入るようにして見つめ、とある提案をしてみる。 「とりあえずボールペンを取り出せるか試さない?」  たしかに、入れて取り出せないのは困ると思い、ウィンドウに視線をくまなく走らせると【中断】というボタンを発見する。見れば見るほど通販サイトの買い物かごだ。  試しに押してみると画面中央に【排出されます。下部に手を添えてください】という警告が出る。  言われるがまま皆で手を添えると、ウィンドウの裏面からボールペンが放り出された。  それをユキは手に取って眺めると、間違いなく自分のだという。 「このシール、私とエリのお揃いシール」 「あ、ほんとだ」  エリが自分の数少ない手荷物のペンケースから、よく似たボールペンを取り出す。  見ると二人のボールペンの側面に、色違いの可愛いパンダのシールが小さく張られていたのだ。  するとユキはもう一度と、別のシールの貼られていないボールペンを取り出し、今度はコレで必要な物を選んでみようと提案した。 (確かに……これが本当に予想道理のスキルなのか試す必要がある)  とりあえず日持ちのしそうな食料と、衣類、入れ物に便利な大きな革袋。続けて画面をスマホの様にスクロールすると武器が出て来た。    とりあえず自衛は必須という事でユキは槍、エリは剣と盾。リンも同じく剣と盾を選択した。 「えっと……これで合計【180.000】……結構ギリだったね」 「やっぱ武器が高かったねー。ユキの一本で70.000したもんね」 「いいのかしら、私こんな高そうなの」 「良いのいいの、盾が持てない分上等なのは必須だよ。それにこれはエリのボールペン代なんだから」 「……なんだか、そう聞くと一気に頼りなく思えるわね」 「神槍! ペンボルグ!」 「やめて、凄く恥ずかしい」  二人の会話を聞いて思わず苦笑する。 「とりあえず決定するよ」 「うん」 「お願い」  リンは頷いて【清算】を押す。  すると画面中央に先ほどのような表記が出る。 【排出されます。割れ物が有る場合、低く位置することをお勧めします】  という注意書きまで出た。  今回はそのような物は無いのでそのままだ。 「わ、とと!」  ボトボトと落ちてくるのは先ほど選んだ一式全てだった。  数分かけてそれが終わると、最後に【残り残高20.000排出しますか?yes/no】と出た。  まさか、おつりまであるか。  そう思ってイエスを押すことにした。  すると出てきたのは二枚の銀色のコイン。 「なにこれ」 「マジか」 「リン君、わかるの?」 「……たぶん、コレ銀貨だよ」  皆の視線が集中するリンの掌には、異世界の貨幣が握られていた。
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