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時間は戻って現在。
彼らは手に入れた衣類に着替える事にした。
とは言え、流石に草原のど真ん中で服を全て脱ぐ訳にはいかないので、ユキがチョイスしていた膝下までしっかりカバーする、革製のフード付き外套を纏う事にした。
上着や手に入れた食料などを革袋に入れると袋が足りない事に気付き、慌てて銀貨一枚を投入し、更に革袋と、お金を入れる小さな袋を購入。
結果銀貨が崩れ、銅貨数十枚出て来た。
引き続き荷物を仕舞って、銅貨と銀貨も袋に入れユキに預ける。
「なんで私?」と彼女が聞いたが、元々ボールペンは彼女の物だという事からそのような流れになった。
そしてステータスを見るとリンの魔力が40減っていた。
二度の購入で、20ずつ消費したものと思われる。
流石に見るだけで流石に魔力が減るとは思いたくない。試しにウィンドウの開け閉めをしてみたが、やはり変動はなかった。
「でもさ、ボールペン一個でこれはやばいでしょ」
エリは自身の服装を見て呟く。
左の腰には刃渡り60センチほどの剣、そして左手にはバックラーが備え付けられている。
彼女たちはまだペンケースの中に数本のペン類を持っている。
つまりソレ=20万という計算になってしまう。
ちなみに外套の下はブレザーの上着を脱いで、脱いでワイシャツの上から皮鎧、バックラー、剣、街頭というシンプルな見た目だ。若干ワイシャツが浮いているが、外套で見えないのだからここはセーフとする。
最初、どうやって身に着けるのかが不明で四苦八苦したのだが、ユキがじっくりと調べたのち「こうじゃないかしら」と言ってリンとエリの着付けをした。
ユキは二人の練習で、完全に覚えたらしく自分でつけてた。
スカートの下はエリが「これ欲しい」と言って半ば無理やり買った、何かの動物の毛皮で作られたショートパンツ二着を二人が付けている。
「これなら見えても恥ずかしくないね!」と断言する横でユキが「初めてスカートの下に履きました」と呟いていたのが印象的だった。
荷物は現在リンが持っている。ステータスが低い彼ではあるがせめて荷物くらいはと買って出た。なけなしの男のプライドである。
一行は互いにスキルを確認しながら道を進む。
やがて日が傾き始めると、遠方に明かりのような物が見えた。
釣られる様にそこへ向かう。
当然リンは「初対面の人はどんなに優しそうでも警戒して」と2人に告げて先頭を歩いた。
流石に楽観的なエリも彼の真面目な顔に押されて、神妙な面持ちで頷いた。
しばらく進むとそこには四人ほどの男女がこちらを見て警戒している。
どうやら接近に気が付いていたようだ。
こちらを見た一人の男性が腰の剣に手を添えながら問いかける。
「誰だ?」
「す、すみません。俺たち、道に迷ってるんです。遠くから明かりが見えて、誰かいると思って来たんですが……ここがどこか聞いても良いですか」
リンは手を上げながら質問する。すると彼らは視線をリンたちから逸らす事は無く、相談をする。
「……盗賊にしちゃお粗末だな」
「アタシもそう思うね。特に後ろの子たちの見た目が良すぎる。盗賊だとは思えないね。盗賊の女ってのはもっとスレてる」
「俺の警戒網の中には、あの三人しか反応しない。これで潜んでたら、相当やばい奴らだぞ」
「……となると、ガチの迷子か?」
「警戒はすべきなのである」
「分かってる」
その間もリンは二人に変な事をしない様に言い聞かせる。
「わかった、とりあえずこっち来てくれ。武器は持ってるか?」
「はい。これです」
俺たちは、獲物抜いて見える様に掲げて見せる。
「……使われてないね。新品同様だ」
「だけどあの槍、妙に品質が良くねぇか? ちなみに新品」
チラリと眺められる。
(ユキの武器が上質過ぎたか……? これで、彼らが逆に欲に負けて物取りになったらマズい)
内心冷や汗を流しながら彼らを眺めると、一人の男性が口を開いた。
「おめぇら、新人だな? いくら親が金持ちでも身の丈に合わねぇ武器は身を滅ぼすぞ?」
「え?」
「ったく、どこの冒険者だ。最近のギルドじゃこんな注意もしねぇのか? まあいい、こっちこい。疲れただろ」
手招きをされて、俺たちは顔を見合わせる。
踏み出そうとするエリを引き留め、少しでも見定めようと彼らを見ると女性剣士らしき人が少しだけ表情を緩める。
「お? 一応警戒心くらいはあるみたいだね。感心関心」
すると、先ほどから代表で会話をしていた男性が再び口を開く。
「ここでニコニコと無警戒に近寄ってきたら、その不用心さに拳骨をくれててやろうかと思ったが、最低限の危機管理は出来るみたいだな。ほれ、今度こそ何もしねぇからこっちこいって」
「お嬢ちゃんたちも疲れたでしょ。こっち開いてるわよ」
何やら歓迎ムードの男女に誘われるがまま近くへ寄ると、リンは短髪の剣士風の青年に引っ張られ肩を組まれる。
「お前、名は?」
「リンです」
「リンデス? 変わった名だなぁ」
「いやいや、リンって名前です」
「私はユキです」
「エリだよー」
「おう、そうか。……それにしてもお前女っぽい名前だな。俺の名はハルト、そっちが」
ハルトと名乗った青年がユキとエリの近くに座る女性に視線を投げると、彼女も名乗った。
「アタシはカリン。剣士やってる。んでそっちで肉をかじってるのがウチの斥候のレン」
「ちーっす。よろしく。こんなだだっ広い草原でふらふら歩いてきたから、盗賊かと思ったぜ」
肉を飲み込んだ軽装な男性が片手を上げるが、その視線はユキとエリに向いている。
(二人とも可愛いもんなぁ)
「そっちの無口そうなのが盾のウォード」
「……よろしく」
肩幅の広い男性が、木の器で出来た入れ物にスープを入れ飲んでいる。
(いかにも仕事人というか、武人気質ってやつなのか?)
自己紹介を終えると、ハルトが再び口を開く。
「俺たちはこの辺りで活動してるBランク冒険者パーティ「熱血の拳」っていうんだ。お前らは?」
「えっと……まだ未定でして」
「……なるほど、マジモンのペーペーか。どこへ向かう予定だったんだ?」
「それが地図を無くしてしまって……今どこに居るのかすら……」
「おいおい、俺たちに合えてよかったな。この辺りじゃ小さな村しかねぇぞ」
ハルトが呆れた様子でこちらを見る。
実際は何処に行くも何も、何もわかっていない状態なので仕方がない。
「しゃーねー。お前ら明日は近場の村に戻るぞ」
「え、いいんですか?」
「仕方ねーだろ。若いもんを放り出せるかってんだ」
腕を組んで眉を寄せるハルトに、お礼を言うと彼はそっぽを向いてしまう。
するとカレンがニシシと笑いながら
「コイツ、故郷に弟がいるんだけど、それがアンタに似てるからほっとけないんだよ」
「うるせーぞカリン!」
ハルトの怒鳴り声にびっくりしてしまいそうになるが、ハルトが良い人だという事は分かった。
「ご迷惑おかけしますが、お願いします」
「やめろって」
「え?」
「俺たちにはそんな畏まった口調いらねぇって。よろしくでいいんだよ。冒険者なんだからな」
フン、と鼻を鳴らすハルトに思わず笑いそうになりながら俺たちは声を合わせた。
「「「よろしく!」」」
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