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「いやあ、酷い目合ったぜ。まさかあんな方法で攻撃してくるとはなぁ!」  ガハハ、と大笑いするグラン。彼の肌は仄かに赤みを増していてやけどの跡が数か所見受けられた。 「いやあ、まさかあんな事になるとは俺も思いませんでした」  対するリンも腕やら顔にやけどの跡があるが、ユキが治癒魔法を施してくれている為それも徐々に消えつつある。 「なあお嬢ちゃん、悪いんだが俺にも治癒魔法頼めねぇか? 痛くてかなわねぇ」 「ええ、こちらが終わったらすぐに。うちのリン君がすみません、加減を知らない物で」  まるで息子の悪事を謝る母親のような口調でグランに頭を下げるユキ。  それを見ていたエリは指差しながら大笑いしていた。 「この子はお前のコレか?」  そう言ってグランは小指を立てる。 「ええ、彼女も俺の大切な人です」 「もって事は……そっちの爆笑してる子もか」 「ええ、ああ見えて強いですよ。レベルとステータスは俺以上です」 「へえ、そりゃすげぇ。何がすげぇって、あんな美人2人を心底惚れさせてるってのがすげぇな。どうやったんだよ、俺にも教えろよ」 「いやあ……」  最初はカッコいい男といった印象だったのに、今では下世話な話題で盛り上がる近所のおじさんみたいになってしまったグラン。もしかするとこちらが素なのかもしれない。  リンはどうした物かと悩んでいると、そこに彼の娘イータがやって来た。 「お父さん! これ以上恥をかかせないでよっ!」 「お、おいイータ。恥ってあんまりだろ」 「恥でしょ!? 元冒険者であるお父さんが一般人のコットンに勝負を挑んだあげく、無関係な人まで巻き込んで、その上何を話してるのっ」  雷が落ちて首をすくませるグラン。  イータも随分とおかんむりの様で「わ、悪かったって」と必死に謝っている。  そこにコットンもやって来る。  なんでも訓練場を貸し切っていた支払いをしてきたそうだ。 「イータッ」 「コットン!」  2人は人目をはばからずヒシッと抱きしめ合う。  まるでラブロマンス舞台のワンシーンのようだ。  暫くそうしていると2人は身体を離し、コットンはこちらに視線を向ける。 「皆さん、今回は私の為にご助力頂いてありがとうございました」 「いえ、こちらも依頼としてやるべきことをやっただけです」  ついそう答えたが、途中から賃貸の割引云々の話はすっかり忘れていた。  ああ、そういえばそうだったな。なんて考えながらもそんな事はおくびにも出さずリンは続ける。 「それに友人の恋を応援するのは当然の事ですよ」  そう言って視線をユキとエリに向けると、2人は笑顔を浮かべたまま頷いた。  その言葉に2人は嬉しそうに礼を告げると、それを聞いていたグランも真面目な顔で頭を下げる。 「俺からも礼を言う、身内の事で色々世話になった」 「いえ、貴方が言う意味も分かりますからね」 「……随分と苦労してるらしいな」  どうやらベルロランや前田たちの事を言っているのだろう。彼ほどの冒険者であればそれなりに友好関係もあるだろうし、情報を仕入れる伝手にも困らない筈だ。 「まあ、お陰でこちらも目標は出来ましたよ。面倒ごとを跳ね除ける程度の力は持とうってね?」 「いい目標だな。その調子で嬢ちゃん達を守ってやれよ」 「はい」  そこに拍手しながら近づいて来るギルドマスターのシヴロスとアンラクエの2人。 「見事じゃったのう」 「ええ、とても素晴らしいです」  2人の褒め称えているポイントが若干違うように見えるが、そこはスルーを決め込むリン。 「ギルドマスター、この度は場所を貸していただき感謝する」  グランが深く頭を下げるとシヴロスは笑顔で「構わない」と答える。 「ワシの知る男の娘が幸せになる為じゃからのう。これくらい安いもんじゃ」 「ああ、腕はまだまだだがコイツなら娘を任せられる」 「しかしオヌシは膝を壊していた筈ではなかったか? 良くアレだけ動けたのう」 「ああ、それは単純にずっと片足で動いてただけだ」  その言葉にリンとコットンはギョッとする。  アレほど激しく暴れまわって、力強い一撃を放っておいて片足しか使っていない? どんな化物だ。  視線を先ほどまで戦っていた広場に向けると、確かにそこには常に左足の後しか残っていなかった。ただどれもが地面を大きく抉っていて、ものすごい力で踏み込んでいた事がハッキリと伺える痕跡だった。 「これでも冒険者に絡まれる娘をずっと守って来た男だぜ? この程度は出来るさ」  グランの言葉にコットンは苦笑いを浮かべる。 「……私もアレくらいできる様にならないといけません、よね?」 「期待してるぞ婿殿」  ニカッと笑うグランにひきつった笑みを浮かべるコットンがやけに対照的だった。  だがリンとしてはグランの鑑定結果に目をみはるばかりだった。 ―――――――― ●グラン 男 元冒険者 55歳 レベル65 状態:片足破損による身体ステータス半減 スキル:大剣術 気刃 体術 火属性魔法 ――――――――  そう、彼はステータスが半減してあれほどの動きをして見せていたのだ。さらには魔法も使えた。魔法であればステータス半減を受けない。つまり全力での一撃が放てる。  だが先ほどの戦いでは使っていない。完全に手を抜かれていた。  もし魔法を使われて居たら、幻惑まるごとコットンは丸焼きになり、あっという間にリンは間合いを詰められていた。もしくは遠距離で火力攻めだ。  その事に引きつった表情をしていると、グランはリンをちらりと見て笑う。 「お前さん、晩成型だろ」 「えっ」  誰にも言った事は無いのにあっさりと言い当てられてしまい、目を見開くリン。  それを見たグランは声を上げて笑う。 「だめだぜそんな簡単に顔に出しちゃ。引っ掛けで行ってくる奴もいるんだから、そこは憮然と「何言ってんだ?」くらい言って見せろ」 「ぐ……すみません」 「まあいい、今レベル幾つだ?」 「17です」 「おお、そのレベルであそこまで戦えるのか」 「スキルに救われてますよ。ただグランさんみたいな実力者相手だと時間稼ぎが精いっぱいですね。もし貴方が本気だったら今頃負けてたのはこっちですよ」 「おっと、鑑定持ちか?」 「さあどうでしょうか」  今度こそはと、リンはしらばっくれてみた。するとグランは笑いながら「それでいい」と笑う。 「おっと、お礼が言いたいのはそこじゃねぇんだ。お前レベル17と言ったな。じゃあ後3つ気合で上げてみろ」 「え? まあ、そりゃレベル上げはしますけど……」 「そうじゃねぇ、早急にだ」 「……何故か聞いても?」  リンが問うとグランは周りをちらりと見て、少しだけ声のトーンを落とす。 「この国はちょいとキナ臭ぇ。近々軍が遺跡に攻め込むって話だ」  軍と聞いて僅かにリンは表情を固くするが、グランに「バレるから落ち着け」と諭される。  恐らくこの情報はまだ非公開なのだろう。それをいち早くリンに教えてくれているのだ。 「遺跡って……アダイ村近くの?」 「おう。なんでもあそこには獣人が住んでいたらしい。この国は昔から獣人の国と魔族の国を嫌ってるから嫌な予感しかしねぇ。そこに軍を送り込むって事は……」 「戦争……ですか?」 「分からねぇ、ただ面倒ごとになるのは間違いねぇ。でもって何が厄介って軍が大規模移動をするときは、道中の村や街から徴収と称して食料を含めた大量の資材と実力ある人間を連れて行こうとするんだ。嬢ちゃん達の実力も高そうだし、何より見た目が良すぎる。面倒ごとに巻き込まれる前にどっかに身をひそめるか、巻き込まれた上で自衛できる力を見に付けろ」 「なるほど……だからレベル上げを知ろと……、でもなぜ3つ上げろと?」 「おっとその話がまだだったな。晩成型はレベルが10区切りでステータスボーナスが発生するんだ。ただ1~10の段階ではそれは無くて、20を最初に発生するんだ」  その言葉にリンは驚く。  そんな裏話があるなど聞いた事が無かった。 「知らなかっただろう? それはな、晩成型がレベル20に到達する前に心が折れて引退するか、死ぬかのどっちかなんだよ。でもって仮に到達した奴はボーナスによって得たステータスを僻まれても困るんで、必死に隠してるんだ」 「……僻まれるほど上がるんですか?」 「凄いらしいぜ。どの程度かは知らねぇが、この情報を聞き出すために情報屋が手持ちの金を吐き出す羽目になる程度には、価値があったそうだ」 「なるほど、分かりました貴重な情報をありがとうございます。お礼ですが……」 「別にいらん。婿殿と娘の応援をしてくれた礼だと思ってくれ」  グランはそれだけ言ってその場を後にした。  いつの間にかギルドの職員や見物に来ていた、グランの古い友人たちがコットンとイータたちを囲んで祝福している。  リンはそれを眺めながらこれからの事を考える。  ついに国が動き出した。流石に3カ月も経てば何かしらの変化はあると思ったが、まさかあの依頼で調査しに行った遺跡に獣人が居たとは予想外だった。  もしかしてあの緊急依頼ってその調査だったのかもしれない。そんな事を考えながらリンはこれからの予定について考え始めるのだった。
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