20

6/8
前へ
/98ページ
次へ
 コットンとの約束通り、500万オルする屋敷を250万オルで購入することにした。  最初の値引きと、決闘中の応援要請でさらに値引きで半額まで下がってしまった。お陰で大助かりだ  多少大金が出て行ってしまったが、それでも持ち家が有ると無いとでは気持ちの余裕は大きく異なる。  ちなみに屋敷の位置は、今まで住んでいた華の都亭から徒歩15分ほどの所にあり、さほど位置は変わりなかった。  元々高級宿だった華の都亭は、他の宿屋に比べて裕福層に近いエリアにあった為、リン達が購入した家と近かったのだ。  だが、リン達が引っ越す事を知ったナルルーが酷く落ち込んでしまった。 「先生……出て行っちゃうんですか? うちならタダで泊まっても良いんですよ?」 「いやあ……俺としてもココは気に入ってるんだけどな、いつまでも厚意に甘えるのは良くない。それにやっぱり家を持つって言うのは最初の目標だったわけだから」 「うう……」  リンとしては家が近いのだから別に悲しむ事は無いのに……と考えているのだが、この場に居るナルルーの父マクロイと、ユキとエリはナルルーの気持ちを理解していた。  自身の魔法の師であり、様々な相談ごとに乗ってくれた異性というのはそれだけで特別な人になりやすい。  それでいてリンは自覚はないが、見た目はやや童顔だが清潔感があり女性受けする笑みと物腰の柔らかさがあった。  リンは「また時間があれば様子を見に来るし、魔法の修業も付き合うからさ」と告げると、ナルルーは渋々ながらも了承してくれた。  それと無く彼女の想いに気付いていたユキとエリはひっそりと「がんばれ」と彼女にエールを送るのであった。  マクロイとナルルーに見送られ宿を後にすると、リン達は購入した宿へと向かう。  引っ越しは問題なく済ませた。  元々荷物の全ては魔法鞄に詰め込んで済ませるので、ほとんど身一つで済むのが有り難い。  家具も以前住んでいた者が残していった道具類が残っており、小道具を買い足すだけで済んだのが大きい。  屋敷の部屋数は6、浴室と調理場、トイレなども完備。  背丈の1.5倍ほどある塀に囲まれた庭もある。 「それにしても結構ボロボロだねぇ」  エリがボソリと呟く。 「ええ、管理しているとは言っても室内の掃除くらいらしいから、外壁だとか庭はそのままらしいわ」 「だからこの有様か」 「……掃除が大変そうです」  よく見れば塀や屋敷の壁には草が絡んで、庭先も雑草まみれで如何に放置されていたのかが分かる。  室内は掃除がされているみたいだが、これではまるで幽霊屋敷だと思ったリンは屋敷全体に清浄化(クリア)をかける事にした。  その効果は絶大で、絡みついていた草や蔦はあっという間に消え去り、若干薄汚れて真っ黒に見えていた外壁の色も、鮮やかなダークブラウンに早変わり。 「まさかここまで変わるとは」  使ったリン本人も驚きを隠せない。 「リンリン、ついでだから塀とかもきれいにしようよ。庭も良く見れば苔むしてる場所もあるし」 「そうね、ちょっとコレを手作業で掃除するには手間がかかるわね。お願いできるかしら」 「あいよ、折角だから敷地丸ごとやろうか」 「そんな事出来るの?」 「ああ、少し前に成果る魔法レベルが4に上がってさ、かなり範囲を広げられるようになったんだ。消費は相変わらず低いままで大助かりだよ。ほら、中に入って一緒に清浄化(クリア)で綺麗にしちゃおう」  リンの言葉に従って敷地内に入ったエリとユキ、もちろんリンも敷地の中に入ると「清浄化(クリア)」と呟いた途端、視界が一瞬光に包まれる。  次の瞬間には塀や、門の鉄錆びも取れていた。中庭の石畳もまるで新品同様に汚れが取り除かれていた。  リンとしても唯一目立てるポイントなので、ドヤ顔になりつつ作業を進める。 「ついでに地面も綺麗にしておこうか。雑草やら小石やらが散らばってるし。草刈(ウィードザッパー)地平(ホライゾン)換気(ブロウ)」  手慣れた様子で地面を均していく。  完全に草を取り除くのではなく、一部は生やしたままにして緑を残す。  小石などは地平(ホライゾン)で一緒に地面に取り込まれた。あとは端に寄せた雑草たちをひとまとめにして乾燥(ドライ)で水気を抜く。  後は発火(イグニッション)で焚火にしてお終いだ。 「あ、焼き芋食べたい」  エリの思い付きにリンは【フリマ】を開く。もちろん人から見えない様に物陰で。  そして数個の芋とアルミホイルを購入すると、焚火の中に放り込んだ。  暫く、乾燥させた雑草などを焼いていると、芋の焼けた甘い香りがあたりに漂い始める。  丁度雑草も燃え尽きたあたりで、リンは芋を取り出す。  灰は落穴(ピットフォール)で地面の中に埋めることにした。  リンも芋を一口齧る。口いっぱいに広がる芋独特の甘み、さらにホクホクとした食感を楽しみつつ時折塩をまぶして食べる。 「んまぁああい! やっぱ焼き芋は塩だね!」 「塩とバターもあるわよ」 「んん! それ頂戴! ……んああ! 甘い、おいしい!」  大興奮のエリにリンは苦笑いしつつ、焼き芋を頬張る。 「ん?」  食事を楽しんでいると、何やら視線を感じた。  何事かと門の方角を見ると、何やら小さな子供たちがこちらを除いていた。  おや、と思い焼きたての芋を持ってそちらに近付く。  すると子供たちは慌てて逃げようとするが、リンが「食べるかい?」と聞くと、ピタリと足を止めた。  見るとその子供たちは少々みすぼらしい恰好をしていた。  浮浪者……ではないだろうが、あまり裕福な家系ではないのは間違いないだろう。  芋を半分に割って中身を見せると、男女含めた子供たちはごくりと喉を震わせた。 「ほら、食べてごらん」  そう言ってワザとひと口齧ってから差し出す。これで毒はないと証明する。  すると一際小さな子供が寄って来る。 「こら、ミーチャ!」  ミーチャと呼ばれた小さな男の子は6歳くらいの茶色い髪の大人しそうな子だった。  受け取った芋を見て、こちらを見る。  どうぞと目くばせすると、笑顔になって一口食べた。 「~~~~!」  熱かったのかもしれないが、それ以上に目は甘味に対する喜びを雄弁に語っていた。  その様子を見ていた子供たちは、我慢の限界とばかりに手を伸ばす。 「その前に!」  リンが声を上げると皆固まる。 「清浄化(クリア)」  魔法で子供たちの汚れを取り除く。  もちろんミーチャも一緒だ。できれば先にやっておけばよかったと思いつつも、この位は誤差だろうと切り替えた。 「魔法だ!」 「綺麗になったよ! べたべたしない!」 「きもちいい!」 「洋服も綺麗だよ! 新品みたい!」  子供たちは笑顔になってこちらを見る。 「よし、じゃあみんなで食べようか。喉詰まらせないようにゆっくりね。お水もあるから」  そう言ってマジックバックから取り出したコップに清水(アクア)の水を注ぐ。  男の子たちは魔法に目を奪われ、女の子たちは目の前の甘味に夢中。  途中からエリたちもやって来て、庭先にテントやレジャーシートなどを出して皆で座って食べることにした。  子供たちも最初は警戒していたが、やはり食による懐柔は絶大らしくあっという間に笑顔になってしまった。 「皆は何処で暮らしてるの?」  エリが何気なく聞くと、一番年上のケビンが答えた。 「この近くにある孤児院だよ。この家、ずっと買い手が居なくて放置されてたから遊び場所として良かったんだ」  少し残念そうに綺麗になった屋敷を見る。  確かに言われてみれば草などは生えっぱなしだったが、遊び場所としては十分な広さは有った。  見た所子供たちの人数は6人。遊び場所に困っていたのだろう。 「リンリン、この子たちをいったん孤児院に送ろうよ」 「だ、大丈夫だって! 俺たち自分で帰れるから!」  エリの言葉に慌てて首を横に振るケビン。  リンはそこで「なるほど」と呟く。  子供たちのしたこととは言え、ここはれっきとした土地だ。そこに入り込んで遊んでいたとバレては怒られると思ったのだろう。  よく見ると幼い子以外も慌てたような顔でこちらを見ている。  その様子にエリ達も察したようで苦笑いを浮かべている。  ただユキが声を抑えつつリンに耳打ちする。 「子供とは言え、これほどの豪邸の敷地に無断で入ってたと知られたら、最悪罰金や孤児院にも飛び火する可能性が有るわ」  その言葉にリンも顔を歪める。悪いこととは言え、子供のした行為でそこまでするかと思ったが、時代や世界観を考えれば仕方ないのだろう。  なんだかんだ言って、こちらの世界に来てから異世界ならではの見たくない現実というのを見せつけられている。  その中でも子供の浮浪者は後を絶たない。  そう言った子供は露店から盗みを働いたり、同じように親のいない子供から物を奪い取るなどをしている。それらが捕まると大人と同様に裁かれることがある。  初犯ならば厳しい叱責と木の棒で打ち据えられるだけで済むらしいが、それでも現代日本で過ごしていたリン達にとっては十分衝撃的だった。  とはいえ、年端もいかない子供たちが罰せられるのは気分があまりよろしくない。 「よし、じゃあ俺と取引をしよう」 「と、取引?」  ケビンが伺うようにこちらを見る。 「俺たちは冒険者でね、何かと家を空けることが多いんだ。だからその間の庭の管理なんかを頼みたい。お礼としてさっきみたいなおやつや料理、お小遣いをあげよう」  その言葉に子供たちはピクリと反応する。  お小遣いと先ほどのようなおやつ、それだけでかなり魅惑的だった。  だが警戒心がまだ残っているようでどうしたものかと悩んだ表情をする。 「でも、保護者に許可を取ってからね? それで今までこの敷地に入ってた事は秘密にするし、もしバレても「オレたちが住む新居を掃除しててもらった」って事にするから」  そう言うとケビンは「いいの!?」と聞いてきた。  もちろん、と頷くと子供たちは顔を見合わせてリンに頭を下げる。 「「「「「「おねがいします!」」」」」」
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

450人が本棚に入れています
本棚に追加