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 ユキとエリを連れリンは子供たちの家である孤児院に向かう事になった。  その道中、子供たちの名前を知る事になった。  まず男の子のリーダーであるケビン、11歳。赤髪を短く切りそろえた勝ち気な少年だった。下の子供たちをいつも引っ張るお兄さんと言った感じだ。  そして次にペルー、青髪でのほほんとした7歳の少年。日向ぼっこが好きなおっとり少年。 そして最初に焼き芋を食べた子供たちの中で一番小さいミーチャ。6歳で茶髪。臆病な性格らしく最初はケビンの後ろにずっと隠れていたのだが、リンが生活魔法で水を出したり風を吹かせたりすると、男の子達と一緒になって大興奮しすっかりリンと打ち解けていた。  ユキの周りには女の子たちが集まっている。  ケビンの次に年長のヨナ、10歳。日本人のような綺麗な黒髪を腰まで伸ばした少女で、非常に好奇心旺盛。リンとユキの関係について「恋人なの?」と真っ先に聞いた子である。  ちなみにユキが「そうよ、あそこにいたもう1人も彼の恋人よ」と答えると、はしゃいだ様子で恋愛について質問をしていた。  次にケビンと何かと言い合いをするターニャ、9歳。金髪で目付きもちょっときつめな印象だ。ただリンが見た感じではユキに時折見惚れた様子のケビンが気になって突っかかっているようにも見える。  最後にクリッタ、8歳。金髪で口数の少ない少女。いつもヨナに手を引かれて歩いている。  男の子たちはリンの周りに、女の子たちはユキの周りに集まって移動をしていると「あそこだよ!」とケビンが前方を指さした。  そこには西洋風な教会がぽつんと立っていた。  少々ボロボロと言った様子で、建築されてから随分立っているのだろうと察せられた。  すると扉が開き、中から40代ほどの修道服を着た女性が出て来た。 「シスター!」  子供たちは駆け出し、シスターの元へ向かう。  するとあちらも子供に気付いたようで「あらあら、どうしたの?」と笑顔で子供たちを迎えながらほほ笑む。するとリン達に気付いたようで不思議そうにしながらもぺこりと頭を下げた。  リン達もそれに答える様にお辞儀をしながらシスターの元へ向かう。 「こんにちは」  リンが極力笑顔であいさつすると、ミーチャがシスターの手を引いた。 「しすたー、お兄ちゃんが僕たちにおしごとたのみたいんだって」  たどたどしい口調だが、ハッキリと告げるとシスターは少し困惑した様な顔でこちらを見る。 「事情を説明させてもらっても?」 「ええ、中へどうぞ。あまりきれいな場所ではありませんが」 「お邪魔させて頂きます」  礼拝堂の中は殆どが木製で作られており、田舎の校舎のような印象を受けた。  ただ所々ボロボロで、穴が開いていたり水漏れしそうな箇所が数点見受けられる。  談話室へ案内されるとシスターはお茶を出してくれる。  だがその味も薄く、随分とわびしい生活を送っているようだと察せられた。  彼女の名前はアニータと言うそうだが「皆からシスターと呼ばれているのでそう呼んでほしい」と言われた為、リンもそれに従う事にした。 「孤児院はシスター1人で?」 「ええ、司祭様は昔居られたのですが病で倒れてしまってから私が」 「代わりの人が来たりはしないんですか?」    ユキの質問にシスターは少し陰のある笑みを浮かべながら頷く。 「残念な事に、この国での孤児は珍しくありません。そして街や村すべての場所に孤児院が有ります。そのすべての孤児院に司祭様を配置するのは難しい事なのです」  いつの時代、世界も人材不足らしい。  確かに大小さまざまな人の住む場所に孤児院が有れば、必然的にそれを管理する人も相応数必要になる。むしろ孤児院がちゃんとあるだけ凄いと言えるのかもしれない。  聞けば孤児院の運営は国ではなく、教会が独自で行っている事業らしい。それゆえ国からの援助は限りなく少なく、お布施と言う形で権力者や街の住人から集まる資金でやりくりしている状態らしい。 「ところで、子供たちに仕事をと言う話でしたが」 「ええ、シスターもお気づきかもしれませんが俺とユキ、あともう一人いるんですが俺たちは冒険者を営んでいます。つい先日屋敷を購入したのですが、仕事の関係上街を離れる事も多々ありえます。そこでこちらの子供たちに、オレたちが留守の間庭の掃除などの維持をお願いしたいと思いまして。ただ、俺と子供たちの口約束だと何かと不安が残る為、是非シスターに話を聞いてもらったうえで判断してもらおうかと思い、お願いに参りました」 「そうだったのですね、丁寧にどうもありがとうございます」  どうやらシスターもリンの丁寧な説明に乗り気の様で、とんとん拍子で話が進む。  気が付けば依頼内容のすり合わせになっていた。 「では期間は決めず、長期依頼として処理。依頼内容は屋敷周りの掃除と庭掃除を3日に1回。報酬は1人1日銅貨1枚、昼食はこちらで持ちましょう。俺たちが依頼で外出中は食事が無いので賃金を銅貨1枚上乗せします。ただ帰ってきた時に手抜きや破損が有った場合は減給と言う事で、支払いに関しては週払い、不在時はその期間を纏めて期間後に一括で支払います」    そう告げるとシスターもニコニコと嬉しそうに頷いた。  むしろ「私もその掃除に参加しても?」と聞いてきたほどだ。リンとしても子供だけでは不安が残る為、監督役として雇う話になりシスターには監督料金として1日銅貨3枚で雇う事にした。 「教会のお仕事は大丈夫なのですか?」  ユキが思わず質問すると、彼女は「30年程務めておりますが、礼拝に来られる方はほとんどおりませんでしたから。神も生きるための努力ですから許して下さると思います」と答えた。  何とも世知辛い話である。  とりあえず契約書として書いて残す事にした。  そして帰り際に教会への寄付として金貨5枚を納めると、シスターは何度もお礼を告げていた。  これだけあれば、改修やら補修に回しても充分食べていけると喜ぶシスター。  また依頼に関してだが、今日掃除したばかりなのでスタートは3日後から仕事をお願いする事となった。 「これでとりあえずの予定は終わったな」  リンの言葉にユキとエリは頷く。 「そうね、孤児院の一件は少しだけ予定外だったけど、不在時に掃除をしてくれるのはとても助かるわ」 「そうだね。いくらリンリンの魔法で綺麗になると言っても、汚いままを放置してたら周りの家とかに迷惑だろうし。でも賃金はあれでよかったの? もう少し渡しても良かったんじゃない?」 「そうでもないさ、シスターはこれまでギリギリの資金でやりくりしてきたんだ。寄付した金とこれから仕事で得る金を上手く使えば、これまでより良い生活できることはあっても、足りないって事は無いさ。  一般家庭が1ヶ月暮らしていくには10,000オル……つまり銀貨一枚が必要。 子供たちは6人で合計6,000オル、シスターは3,000オル。合わせるとこれだけで一般家庭の一か月分に匹敵する。流石に子供たちから全部搾取する訳にはいかないから何割ってところだろうけど、コレを3日に1回ペースで行えば十分貯金できるだろ?」 「あ、そうなんだ。じゃあ今回の孤児院に渡した仕事って……」 「かなり旨味のある仕事って事になるわね」 「へ~……」  エリは少しだけ感心ような表情をしつつ頷く。  お金の扱いなどを大抵ユキかリンに任せているせいか、こういった細かな金の流れに関しては一番疎いのがエリである。 「さて、今日は色々あったし帰ったら大人しく休もう。冒険者家業は明日から再開だ」  翌日、新たな新居でしっかり休暇を取った三人は草原へとやって来た。   「15体目っと!」  リンの剣に切り裂かれたコボルトが地面へと倒れ伏す。 「おつかれ~。すっかりリンリン1人でもこの辺りの魔物を狩れるようになったねー」 「日頃訓練をしていたし、少しずつとは言ってもレベルが上がってるもの。生活魔法と宝珠のお陰でリン君の強さは大きく上がったわ」  2人の言う通り、リンはこれまでの戦闘スタイルに加えて幻惑や念動力による戦闘が追加されたことで、1人では不可能だった多数対1の乱戦でも十分に戦えるようになっていた。  それでも少ないステータスゆえに、ゴブリンやコボルトといった低位の魔物だけに限るが、それでも今までユキとエリの援護ありきだったリンとしてはかなりの進歩だった。  しかしリンのレベルは未だ上がらない。  元々晩成型という事も有って、レベルの上がりにくさもあったが20を手前になったあたりから極端に上がりずらくなって来た。 「……俺、いつになったら20になるんだろうな」  少しだけどんよりした気分の中、リンは空を見上げる。  見れば太陽が沈み始めており、あと一時間もしないうちに夜となるだろう。 「どうする? いったん帰る?」  エリの言葉に頷きかけるが、脳裏に先日闘ったグランの言葉を思い出す。 『気合で後3つレベルを上げろ』  その理由を聞いたらどうやら晩成型は20を超えたあたりからステータスの向上が大きく上昇するとの事だった。  さらに緊急依頼で上がっていた遺跡関連もどうにも国が絡んでいてて、怪しい雰囲気が漂っていると彼が話していた。  それらを鑑みるとここで帰るという考えはなかった。 「悪い、折角屋敷を買ったばかりで申し訳ないんだけどレベル20まで頑張りたい」  リンの言葉に2人はさして反対意見もなく了承した。  グランの言葉や国の動向が怪しい事も彼女達が聞いていたというのもあるが、なにより普段控えめなリンが我儘を言うのは非常に珍しいからだ。  彼がここまで言う時は何かしら理由と意味がある事が多い。そう言った経験もあり、彼女たちは2つ返事で協力することにした。 「でもこの辺りの敵じゃ、あまり経験値も良くないかもよ? アタシたちもレベルが上がらなくなってきたし」 「そうね……ここは1つ、森の少し奥まで進んでみる?」  奥という言葉を聞いてリンは思案する。  これまで狩りを行っていたのは森の浅い領域だった。この辺りに現れる魔物のランクはFからE、稀に上位固体と思われるD-前後の魔物が出没する程度だ。  しかしここから更に奥となればこれらが一気に跳ね上がり、D+からC前後の魔物が現れるようになる。  リン達のランクはCなので、そこだけを見れば適性ともいえるのだが問題はリンのステータスの低さ。  ユキやエリはちょうどいい敵と言える魔物たちを相手に戦う事になるが、リンは常に格上を相手にすることになる。  これまではユキやエリも余裕があった事で、多少の格上でも問題なく立ち回る事が出来たがこれからは2人の援護は期待できなくなる。 (危険はある……だけど、ここで危険を冒さずにレベル上げをするとなると子のペースじゃ数ヶ月かかる。その頃までこの国が大人しくしてくれる保証はない……)  暫く考えた後、リンは中層への侵入を決めることにした。  とりあえず様子見を兼ねて、魔物の強さが切り替わるだろう領域の境目で活動することにした。  地図で領域区分されていたとしてもゲームのように『ここから先に行かなければ強い魔物は出ない』なんて甘い事は無く、むしろ奥からこちら側へ流れてくる事すらある。  それでも強者からのバックアタックを気にしなくていいのはリン達にとって一番のメリットだった。  若い冒険者だと、リン達ほどになると自身の力を過信して無謀な行為に走りがちだが、彼らに関してはそれは無い。  そう言った冒険者が如何なる未来をたどるか、それは現代日本の漫画知識などでは嫌というほど語られているのだ。  こればかりは漫画知識の無いユキも全面的に賛成。むしろ戦術的な意味合いであるならばエリよりも理解できていると言ってもいい。  ともあれ3人は一度【フリマ】の武具メンテナンスを行い、万全の状態で森の奥へと進むことにした。
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