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「だから、彼の精力は、絶倫だけど・・・」
「なかなか妊娠しないんだね。仕方がないよ。そこは、われわれでも、自然の法則に従うしかないわけで」
「かならず超能力者を宿せる魔法でもあればいいのに」
「そうすれば、幻魔の勝利は確実になるのに」
江田四郎と久保陽子は、高鳥慶介を無視して、淡々と話をする。
「おい、何を話しているんだよ、僕はここで、大事な作業の真っ最中なんだぞ」
「どうぞ、ご勝手に。どうもね・・猿人系幻魔じゃないもので・・サルの交尾を見ても、興奮できなくてね」江田四郎が、とって付けたように言った。
「それなら、どこか他所で話し合ってくれ、気になって専念できないじゃないか」
「知っているだろ、この施設の中で、ここが一番安全だってことは」
「だから、私が江田さんをここに呼んだんです」
「陽子・・くん」
「すみません、主宰」
「”先生”じゃないんだ」
「”先生”と呼ぶのは、学校じゃなければ、東さんだけにしているので」
それでも、陽子の言葉に心情が伴っていないのは代わらない。
なにか、ロボットが話しているような。
間違いなく、彼女の中の大事な”何か”が欠けているか、壊れてしまったらしいことは、明らかだった。
「彼は・・東丈の代替物?」
「いけませんか、江田さん」
「いえ、別に・・君がそう考えたのであれば、それでいいのではないかな。みんな、それぞれに、出来ると思うことをやればいい。当面、”シグ”は行方不明になったのだからね。”僕たち”にとっての目の上のたんこぶは、消えたと、判断していいだろう」
「そうね”私たち”の敵は、もう、どこにもいない」
「どうしてって聞かないの?」
「聞いても仕方がないだろう。どうして、この世界が、こういう風になっているのかなんて、考えても仕方ないだろうに」
「だ~、うるさい!」
「気にしないで、こっちは、気にしていないのだから、主宰」
「だから、こっちが気にするって言うのに。大事な女の子とのお仕事の最中だというのに」
「この程度のことで”お仕事”がおたらくになるのでは、天下を取るなんてできっこないですから。まして、宇宙なんて・・」
「僕なんかよりよほど、野心家なんだね、陽子は」
「一応、あなたの”兄貴分”・・なんでしょ、私に移植したのは」
「ああ・・そうだよ・・名前は、幻魔・・ザメディ」
「そして、あなたは幻魔ザンビ。どうも、双方ともに”仮の宿り”で、いずれは、食い尽くした跡に、もっと別の超能力者に乗り移ろうとしていたようだが、ザメディは・・まあ、NYで丈やその仲間たちに散々な目にあっていたにせよ、君に逆に吸収されちまうなんて、思いもしなかったのだが」
「そのせいなのでしょうか、この胸の中に、なんだか、ぽっかりと大きな穴が開いた見たくに、なんか、すーすーと、そこから冷たい風が、吹き込んでくるんです」
「そうだろうね。きっとザメディと合体したせいだろう。それを、まあ、謝るつもりはないけどね」
「そうですね。あなたのような悪人に謝られても、困ってしまいますから」
「そうだ。せいぜい、悪いことをするのが、僕たちの仕事なんだからね」
「そうなんでしょうか」
「そうじゃない・・というの」
「ええ、確かに、私たちは幻魔ですけど。幻魔を吸収合体することができたわけで・・ましてや、目の上のたんこぶの”シグ”がどこかに消えた今、バカ正直に、幻魔の地球人類破壊作戦を履行する必要があるのかしら」
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