RMAラプソディ

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 高鳥慶介は、名古屋出身である。  今は、東京の6大学の一つ(ただし、国立大学ではない)に籍を置く大学生だが、多忙のため休学中。もっとも、日常で彼の口から名古屋弁が出ることは、まずない。  その意味では、彼を関東圏の生まれの人間だと思い込んでいる”信者”は多い。彼は今、新興の宗教法人RMAの”主宰代表”として活動している。もうそろそろ、”東丈の後継者”という謳い文句も邪魔になってきていた。  自分は、確かに東丈の正統な後継者として立ち上がったが、いずれは、彼を越えた人間でなければ、我慢できなかった。  なあ、それでこそ、ライバルというものではないか。  高鳥慶介は、長身、いわゆる八頭身、顔は・・東丈ほどの超絶美形とは行かないが、ハンサムと言われていいだろう部類に在る。  新興宗教の代表となった今は、うっすらと化粧することも覚えた。  如才なく、好青年を演じることは、彼の十八番だった。彼が、野心家であることを見破れる大人は、まず、存在しなかった。ある意味、あの東丈でさえ、騙しおおせたという自負がある。  今、東丈は、この世界には存在しない・・らしい。  いわゆるの失踪による行方不明。彼の最愛の姉にも、行方を告げないままに、忽然と姿を消した。そして、その後も、失踪先から姉に所在を知らせるようなこともしないまま。音信不通。こうなると、なんらかの理由で”最悪の決断”をしたとでも考えるしかない。それこそ、今は失踪した箱根の山の中のどこかで、白骨になっているのではないか・・高鳥は、まだ誰にも口にはしなかったが、まさにそこまで考えていたのだった。  ならば”万霊の主”たる自分のレパートリーにしてもいいのではないかと思う。  もっとも、まだあいつが失踪してから1年にはなっていないのだから、それをするのはリスクかもしれない。  ”万霊の主”である条件として、その偉人が死んでいることを明言してしまっていたからだ。もし、”万霊の主”のレパートリーにした後に生きて帰ってきたら、高鳥の目論見は瓦解してしまうではないか。  いずれ、遠からずといわず、このRMAを足がかりに、日本の政財界に隠然とした力を持つ”大物”になることが、高鳥慶介の”大望”であった。無論、この日本でそうした地位を確立した後も、それで満足することはない。行けるところまで行くというしかないが、この世界を相手に、のし上がってやる。  その感触を、今の段階で高鳥慶介はすでに掴んでいた。  誇大妄想かどうかは、結局それを実現できたか否かの違いでしかないからだ。  やはり、名古屋なんかと東京は違う。著名人、有名人、政治家・・アポさえ取れればだが、日帰りで会いに行ける。それは、情報量として、全然次元が違うのだった。  まさに百聞は一見にしかず、なのだ。実物に会うのは、百万の彼、彼女の著書を読むよりも、大きい。  まして、超能力者である高鳥にとってはなおさらだ。  東丈は、明らかに彼の組織を宗教団体にすることには否定的だった。  しかし、それでは、効率が悪い。あえてそれを”政治”というのならば、政治は金であったからだ。  金さえ積めば、どんな有名人も、仕事として会うことが出来た。そして、金をもって彼らとコネが生まれる。コネとは、まさに力であった。
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