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眠りにつく勘解由小路
警察庁祓魔課の安眠 祓魔官不在編
不意に、勘解由小路降魔は目覚めた。
仰向けで眠っていたらしい。
超高級な大型スピーカーからは、ブライアン・イーノの穏やかなアンビエントが流れている。
真琴への配慮だった。イーノは意外によかった。真琴の穏やかな寝息が聞こえている。
寝る時に音がない環境は有り得ない。それは自認しているのだが、一緒に眠る真琴にとっては騒音でしかない。
真琴の負担にはなりたくはなかった。少しでも真琴の睡眠の妨げにならないように、勘解由小路は細心の注意を払っていた。
悪くないみたいだな。この後ビル・エバンスのアンダーカレントなんだが、ああ始まった。
ジム・ホールのギターが有機的に融合する静かなジャズはいい。インタープレイでどちらも競うことなく前に出る融合的な演奏法は素晴らしい。
勘解由小路の左手は真琴が握っている。優しく指を解いて、背を向ける形で寝返りを打った。
背中に真琴の頭が触れた。
俺が寝返りを打つと真琴も寝返る。常にくっついている。
へばりつくような愛情を感じた。
全く嫌ではなかった。ああ。俺も愛してるぞ、真琴。
逆側に寝返った。真琴の唇。額に自分の額が触れた。
何故だ。何故ここまでお前は。
心地好さそうな真琴の息が漏れた。
これが、お前の愛なんだな。赤ん坊のように俺にしがみついて、ここまで心安らげるのか。
こんな出来損ないの俺を。
愛されることに、ここまで多幸感を感じるとは。肉感的な快楽を超えた、心の交歓に充実感を抱くとはな。
本当に愛してる。お前になら殺されてもいい。可愛い真琴。でもいいか。
考えるのをやめて、勘解由小路は真琴の吐息を感じながら眠りについた。
流紫降、碧、莉里、緑、真琴。真琴。真琴。
淫靡さを払拭し、どこまでも弛まぬ愛に浴しながら、ゆっくり意識が溶けていった。
その日、祓魔官達は、勘解由小路不在の一日を過ごすことになる。
謎を解くことも、秘密に迫ることもない。
久しぶりの休暇を、彼等は過ごすのだった。
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