10人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
黒いシスコン
屋敷の中の狭い隙間に挟まって、影山さんはニヤニヤしていた。
影山さんに音楽は要らない。多少距離は離れていても、涼白さんの感情は常に感じているのだった。
猛烈な多幸感に浸っていると、
「影山、影山あー」
今の新しい母に呼ばれた。
「何でしょうか、母よ。いや、お嬢様」
これが、新しい飼い主、母の勘解由小路碧だった。母という言葉にちょっと眉を寄せて碧は言った。
「このシスコンが。そんなに涼白の感情モニターするのが楽しい?ちょっと病的と言えるわよ」
「むう。そうだろうか?今涼白は甘い物を頬張っている。泣くほど嬉しいようだ」
「三田村さんお手製のシュークリームよ。私も混ぜて欲しかった。当然よ。世界最高の執事が手ずから作った芸術品だもの」
執事に執心するのは彼女も同じだった。
そうだった。涼白は甘い物が、特に生クリームが好きだった。どんなに辛い目にあっていても、クリームを用意すれば途端に涙を引っ込めるのだ。
「何故人は生きるのか」
それは多分美味いシュークリームを食う為に。
「何突然哲学してんのよ。妹に日々欲情する哲学ヤモリなんか、ほぼ犯罪じゃない」
「違う!確かに涼白は可愛い!あの白い髪といい肌といい人類は何故涼白を放っておくのか?!目の前にある宝を平然とスルーする!度し難い!人間め!あああああ!涼白が泣いている!何故だ?!許さん!許さんぞ!」
碧は溜息を吐いて言った。
「莉里は涼白泣かせたりしないわ。流紫降は遊び行っちゃったのよ。付き合え影山」
むう。執事として、お嬢様の命令には逆らえなかった。
シスコンヤモリ執事はこうして家を出ることになった。
最初のコメントを投稿しよう!