エピローグおはよう

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エピローグおはよう

 そして、勘解由小路邸は、全てが静止していた。  全ての人間、全ての存在が眠りについていた。  娘も息子も、カワウソも犬もメイドも執事も、誰もが深い眠りにつく中で、眠りの帳で家を覆い隠した存在が、今降り立っていた。 もう、彼等は永遠に目覚めることはない。このまま彼等が死ねば、その魂はそいつのものになる。 我が母よ。ニュクスよ。貴女の敵は私、ヒュプノスが誅しました。 ヒュプノスの眼下には鼾をかいた男が妻と眠っている。枕元の箱からは退屈な音楽が流れていた。 音楽が変わった。途端に男がパチリ目を覚ました。 「あああああああ!寝すぎちまった。ん?お前は誰だ?」 呆気にとられて、ヒュプノスは男を見つめていた。 「俺の携帯のCDレコは、150ギガのストレージ契約になってる。それがほぼフルサイズで音楽データがコピーされてて、今かかってるこいつは連続再生が30時間を超えるとかかる。サイケデリックなアシッドフォークやアシッドロックはまだ体が普通だった頃ちょっとだけかじったジャンルだった。デッドのアオクソモクソアだ。普通じゃそこまで行く前に起きちまうんで、こういう形で再生されるとかえって新鮮だな。セントステファン悪くないな。真琴起きろ。おはよう。ああ眠らされてるな。ああ可愛いな。抱きしめてやろう、おっぱいを背後からムニムニしてやるぞ。どうだヒュプノス、ヒュプノスだなお前は。昏睡レイプ魔みたいな神はヒュプノスしかいない。真琴可愛いだろう?モノクル外して頸筋チューチューしちゃうぞー」 うん。真琴から甘い声が漏れた。 「土日が完全に終わっちまった。俺は今嫁さんへの愛が溢れて平和な気持ちになっているんだ。とっとと失せろ。お前がいるってことはやっぱりニュクスだったか。スカディあたりが順当の気もするが、まあいいだろう。お前がどんな神だろうが俺には通じん」 ヒュプノスは戦慄していた。ヒュプノスは眠りの神で、一度ヒュプノスが捕らえた魂は眠りから覚めることなく死ぬ。 にも関わらず、枕元の音楽を目覚ましがわりにして平然としている。 「何か言えヒュプノス。無言のまま死にたくはないだろう。たかが人間に神がやり込められて業腹だろうが」 「ペラペラとよく喋る口を閉じろ人間!神に敵し得ると思うか?!永遠の眠りにつくが良い!我がインサニティアイを受けろ!開け我が第三の眼よ!」 「面倒臭いないいや俺の切り札を喰らえ。真琴デスあっかんべー」 勘解由小路が、嫁の瞼を指で開いた。開かれた右目は、ボンヤリとヒュプノスを捉えた。 金色の蛇紋がヒュプノスを一瞬で締め上げた。 真琴。真琴起きろ。おはよう俺のエロ蛇ちゃん。 勘解由小路の優しい声で、真琴は目を覚ました。 「あーー。降魔さんお早うございます。昨日はとても幸せな気持ちでした。愛してます貴方」 「二人して寝すぎちゃったな。今確認した。日曜の夜だ。丸一日寝ちまったことになる。俺の霊力はいい睡眠で完全に満タンだ。オス蛇ちゃん触ってごらん?」 「あらまあ!凄い!硬くて、こんなに大っきい。ああしゅてきでしゅ。真琴は大っきいオス蛇ちゃんに迫られてその気になっちゃいそうでしゅ。あら?ところでそこで固まってるのは?」 「ただの空き巣みたいな奴だ。気にしなくていい。さて、勘解由小路降魔さんと可愛い子供達のキャストを増やすのに協力してくれるな?うっとりしちゃって可愛いぞ真琴。俺の愛は今臨界を迎えた。こっそり触ってたおっぱいはパンパンで、ハリがあっていい匂いするし。ああもういいや。いただきまーす!」 勘解由小路は猛然と嫁に襲いかかった。 何か起きた気がした。何かとんでもないものが跋扈していた気がしてならなかった。 しかし、真琴のおっぱいに吸い付く夫のいやらしい唇と這い回る舌の感触が、全てを忘却させた。 いやらしい日曜の夜は、何一つ謎の解かれないまま、隠された事実も解明されないまま、淫靡に更けていった。 大っきいオス蛇ちゃんがグイグイと侵入する感触に、真琴は大きな声で応えた。 こうして、勘解由小路家の夜は何事もなく平和にすぎていったのだった。 了
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