黒いシスコン

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黒いシスコン

 屋敷の中の狭い隙間に挟まって、影山さんはニヤニヤしていた。 影山さんに音楽は要らない。多少距離は離れていても、涼白さんの感情は常に感じているのだった。 猛烈な多幸感に浸っていると、 「影山、影山あー」 今の新しい母に呼ばれた。 「何でしょうか、母よ。いや、お嬢様」 これが、新しい飼い主、母の勘解由小路碧だった。母という言葉にちょっと眉を寄せて碧は言った。 「このシスコンが。そんなに涼白の感情モニターするのが楽しい?ちょっと病的と言えるわよ」 「むう。そうだろうか?今涼白は甘い物を頬張っている。泣くほど嬉しいようだ」 「三田村さんお手製のシュークリームよ。私も混ぜて欲しかった。当然よ。世界最高の執事が手ずから作った芸術品だもの」 執事に執心するのは彼女も同じだった。 そうだった。涼白は甘い物が、特に生クリームが好きだった。どんなに辛い目にあっていても、クリームを用意すれば途端に涙を引っ込めるのだ。 「何故人は生きるのか」 それは多分美味いシュークリームを食う為に。 「何突然哲学してんのよ。妹に日々欲情する哲学ヤモリなんか、ほぼ犯罪じゃない」 「違う!確かに涼白は可愛い!あの白い髪といい肌といい人類は何故涼白を放っておくのか?!目の前にある宝を平然とスルーする!度し難い!人間め!あああああ!涼白が泣いている!何故だ?!許さん!許さんぞ!」 (ジャスパー)は溜息を吐いて言った。 「莉里は涼白泣かせたりしないわ。流紫降(るしふる)は遊び行っちゃったのよ。付き合え影山」 むう。執事として、お嬢様の命令には逆らえなかった。 シスコンヤモリ執事はこうして家を出ることになった。
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