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大好きなのは
ゲイを着ぐるみのように纏った、正確には飲み込まれていたライルは、巨神像を仰ぎ見たのだった。
「あんなでっけえのどうすんだ?!カリバーン!カリバーン!ホントどこいっちゃったのおおおおおおおお?!」
「お前の剣などない。果敢に立ち向かうのだ!必勝の精神は無限だ!絶え間ない心で立ち向かうのだ!」
「てめえは敗戦間際の日本兵かあああああああああああああ?!」
「おいチンピラ!アリオトの危機だ!かくなる上は巨神像もハードゲイ妖魅も倒すぞ!手を貸せチンピラ!」
「うるせえよヤモリ!元はと言えばてめえが巨神像目覚めさせたんだろうが!あとチンピラ言うな!ライルさんと呼べ!」
ハードゲイ妖魅達がバタバタと倒れていった。
現れた碧は、ルビーアイを輝かせていた。
「斬獲か?斬獲するのか?ならばよし!莉里!お前も来い!」
ハードゲイ妖魅達を炎上させた莉里もやって来た。滅魂の鬼火を巻き起こし、銀目銀毛九尾の妖狐が、その姿を現した。
「オッケー姉ちゃん。払底!いくのよさ!」
ハードゲイ妖魅を焼き切り裂いて、田所紀子と百鬼丸がその身を表した。
「何人いようが構わないわ。全部焼き殺す。静也!行くわよ!」
「承知だ紀子。お前の列の先頭に立つのは俺だ」
風を巻いて、静也は現れた。
「涼白さん。一般人を守ってやってくれ。君にしか出来ない」
心優しいアルビノ少女は、小さな妹を庇い抱きしめながら、静也の力強い背中を見つめていた。
祓魔官達は、無数の妖魅に立ち向かっていったのだった。
影山が大きく跳躍し、巨神像の頭にアルコルハンマーを叩きつけ、粉々に砕いたのが、戦闘終了の合図だった。
眼前にはどこまでも破壊された海浜公園が広がっていた。
ポッキリへし折れた観覧車は妙にシンボリックで、すぐ近くにある大規模レジャーランドに敗北したように、誰もが感じていた。綺麗な城は余計にその感情を想起するに至った。
要するに、アメリカには勝てない。
「公園無茶苦茶になったわね。まあ不幸な事故って奴ね」
「うん。回避不能な事柄もあるのよさ。誰の所為でもないのよさ」
全くもって無責任な子供達の姿があった。
ちなみにライルとユーリは妖魅から引き出され、ドサクサに紛れてボコボコにされていた。
「降って湧いた災難だったな。ところで、涼白さんは?」
涼白さんは、幼い兄妹と向かい合っていた。
涼白さんは俯いていた。盛大に妖変異して、影山さんと暴れて回ったのだった。
人間形態を見せていた涼白さんは、面と向かって恐れられることを何よりも恐れていた。特に幼い子供に怯えられるのは、何よりも辛かった。
「あ、ああ、ああああの」
上ずった声を遮るように、妹は言った。
「お姉ちゃん、ありがとう!凄く綺麗だったよ!」
「ーーえ?」
「私も、お姉ちゃんみたいになりたい!」
「うん。凄かったよ。カッコよかった!姉ちゃんて祓魔官?!凄えー!」
涼白さんの目から、一筋涙が流れた。
守りたい小さな命を守ることが出来たのだった。
「子供助けられた挙句ウェルカムで迎えられてよかったのよさ」
「きゃあああ!お兄ちゃんぷいきゃーがいたよ!凄おおおおおおい!私ぷいきゃーになりたいの!」
え?涼白さんの涙が引っ込んで行った。
大きくなったら私になりたいんじゃないの?
子供って。
子供の移り気に翻弄された涼白さんの頭を撫でて莉里は言った。
「何はともあれ解決したのよさ。それで、改めて涼白さんの名前を募集するのよさ。涼白さん、誰に名付けて欲しいのよさ?」
「そもそもそれじゃん。誰が大事か。誰に名前を欲しいのかを最初にはっきりさせればよかったのよ。誰が大事?」
気がつけばいつもいた。ずっといるだろう。これからも。
ちょっと面倒臭いけど。涼白さんは、コソコソと背を向けていた大好きな兄にしがみついた。
「あ、アリオト」
「もうアリオトじゃないもん!涼白だもん!お兄ちゃん、名前つけて」
「尻尾ブルブルさせてないで早く答えろだわさ」
「迂闊な名前つけるなシスコン。影山嫁子とか名付けたら斬獲だ」
「ちょ、ちょっと待て!本当にいいのか?涼白」
「うん。可愛い名前にしてね。影山さん」
少し考えて、影山さんは言った。
「氷花。残暑の曇天に咲く、美しい氷の芸術。実は、ずっと前からーーな」
涼白氷花それが私の名前。爬虫類でもあるが、人間でもある私の、私だけの名前。
涼白氷花は、嬉しそうに頷いた。
「ありがとう。黒男お兄ちゃん。ずっと側にいて」
「え?あ?おお」
「ついでにお前の名前も決まった。タナボタで。帰るぞ黒男」
兄貴の方はどこまでも雑だった。これは、つまりトカゲとヤモリ兄妹の物語。
お互いの気持ちを確認し合い、手を繋いで二人は歩き出した。
「氷全然溶けてないけど。氷漬けハードゲイも」
残された紀子はそう呟いた。公園は酷い有り様だった。
風呂上がりの莉里がパンツ一丁で走り回り、同じような格好の涼白は、莉里を追いかけていった。
「莉里様!ちゃんと拭かないと風邪引いちゃいますよ!あ、影山さん」
白いパンツを履いた涼白さんはばったり会った執事に声をかけた。
白く透き通るような涼白さんの裸体が目に焼き付いていた。
「影山さん、莉里様を見なかった?」
「す、すす、すすすすっぽん、いや。向こうに」
「そう。ありがとう影山さん。おやすみなさいお兄ちゃん」
「ああ。おやすみ」
いつからだろうか。すっぽんぽんの妹をまともに直視出来なくなったのは。
真っ白な肌の先端にプックラ膨らんだピンク色。そう。ピンク色。
今日は全く寝られそうになかった。
「あー。今日は無駄に疲れたのよさ。姉ちゃんは無自覚に霊災引き起こすし」
椅子に座った莉里の髪をドライヤーで乾かしながら、涼白さんは今日の素敵な思い出に浸っていた。
それでも、やっぱり静也君は素敵だな。
赤ちゃん。お乳。
あぎゃあああああああああああ!
「眠くなってきたのよさ。涼白さん、ベッドに行くのよさ」
「はいお嬢様」
ベッドに寝た涼白さんの胸に顔を埋めた。
「あああああああ。女でよかったのよさ。涼白さんのおっぱいを感じながら眠るの天国すぎるのよさ」
「今日は絵本はいいんですか?可愛い莉里様」
「うにゅう。涼白さんは絶対、莉里が、守る、の、よーーさ」
眠ってしまった。可愛い莉里様。
私を綺麗と言った静也君は勿論特別だけど、私を庇ってくれた莉里様。
この恩にどう報いよう。兎に角、私も大好きです。誰が大好きって、静也君でも兄でもない。莉里様が大好きです。
胸にすやすやと寝息を感じて、涼白さんは莉里を抱きしめた。
朗らかな幸せに囲まれて、涼白氷花は眠りについていった。深く。深く。
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