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「え、今って何時?」
ふと目を覚まして、寝ころんだままスマホを探す。
すぐ横に転がっていたそれを手にとって、時間を確認した。
「はぁ…3時って。うそでしょ。」
ゆっくりと体を起こすと、頭がぐらりと揺れる。相当飲んだな、私。
それと同時に私の身体にかけってあった何かが床にずり落ちた。
拾い上げると、明らかに男物のスーツのジャケットだ。
「えっと…」
ゆっくりと記憶をたどる。
今日は仕事の打ち上げで、先輩後輩たちと飲みに行った。
ビールを2杯、それから何飲んだっけ?2件目でよく行くBAR、そのあとここもよく来るカラオケ屋だ。
机の上には乱雑に置かれた空のグラスがいくつか残ったままだ。
え?もしかして寝てる私を置いてみんな帰っちゃったとか。
はぁ、とため息をついたと同時にドアが開いた。
「やっと起きてるし…」
同期の松岡だった。
「みんなは?帰っちゃった?」
「そうだな、とっくにお開きになったな。で、お前、爆睡して起きないからほっとくわけにもいかないしで俺に残って面倒見ろって指示出たわけよ」
「嘘、ごめん。起こしてくれたらよかったのに…」
「よく言うわ。何回も起こそうとしたけど全然起きねえし」
そう言いながら、私の手からジャケットを抜き取り松岡はそれを羽織った。
「さて、帰るか」
言いながら腕時計で時間を確認する彼。
「はー、もう3時かよ、お前寝すぎ」
「すみません。…この時間だからタクシーだね。どうする?もう始発動くまで待ったほうがいいかな」
「俺はどっちでもいいけど。まぁ明日仕事だからシャワーは浴びたいんだよな」
「え、明日仕事なの?…ごめん、私休みです…」
申し訳なくて声が小さくなる。
「っても、俺はタクシーだと結構かかるからこのまま始発まで待つわ。お前先に帰れよ」
松岡は私にそう言いながら、向かい側のソファに腰を下ろした。
たしかに私の家はここからタクシーでも大した距離じゃない。
だけど、私のこと面倒見てくれてた人を置き去りにして帰るわけにもいかず
「ねぇ、よかったら・・・うち来る?シャワーくらい貸すよ」
内心少しドキドキしながらそう聞いてみた。
「え?いいの?」
彼は触っていたスマホから顔をあげて、にやっと笑って聞いてきた。
「…いいよ、べつに」
深い意味なんてないから。ただの同期だし。
少しの沈黙の後、彼は今度はすっと真顔になり
「やっぱいいや」と言った。
「え?なんで?別にかまわないよ私は」
彼はまた視線をスマホに落としながら
「いや、いいわ」と言った。
「構わないのに」
今度はさっきよりもう少し長めの沈黙の後、
「やー、俺たぶん今お前のウチ行ったらシャワー借りるだけじゃ帰れそうにないから」
スマホを眺めながら、だけど指は動く気配はなく松岡はそう言った。
「え?シャワーだけじゃないって…」
そこまで口に出して、自分の顔が紅潮するのがわかった。
心臓がうっすらバクバク言い出してる。
「なんでそんなこと言うの」
「まー。そういうこと。だから先帰れって」
「・・・いいよ、うちおいでよ」
私が小さな声でそう言うと、彼はぱっと視線を上げて私を見た。
「それどういう意味?」
「意味なんか無いし」
「知らねーよ、俺。ちゃんと言ったし」
「私だって知らない」
「そんじゃそういうことで。シャワー貸してね」
彼はにやって笑って、さっと席を立った。
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