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「何か気分が良いから、一発芸やれよ」  突然、翔太が上機嫌で言った。京介はとっさに頭を巡らし、ポケットに手を入れた。そこにはまだ、ガラスの伊達眼鏡を入れっぱなしにしていた。  とりあえず眼鏡を出したものの、京介は何をするべきか迷った。まだそんなに酔いも回っていないので、中途半端なことをやっても上手く行かないだろう。  翔太が期待と好奇心の入り混じった目でこちらを見てくる。京介はとりあえず、眼鏡をかけてみた。  その瞬間、京介は何か違和感を覚えた。慌てて眼鏡を外して、もう一度かける。間違いない。眼鏡をかければ、赤色が眩しくない。  京介はもう一度、眼鏡を外す。本の背表紙やカレンダーの模様など、様々な所の赤色が、強烈な色彩を放っている。だが再び眼鏡をつけると、それらがふっと消えて、昨日までの日常の風景が広がる。  どうしてもっと早く気付かなかったのか。この鬱陶しい能力が消えれば、後は良いことしか残らないではないか。もちろん、店長の顔面を我慢すればの話だが。  神妙な顔で何度も眼鏡をつけ外しをするのが面白かったのか、「何やってんだよ」と翔太は大笑いした。京介も別の意味で、顔に笑みを浮かべていた。  今日は愉快なことがありすぎて、感覚が麻痺しているのかもしれない。だが、京介はそれについては特に何も思わなかった。別に誰かが迷惑するわけでもない。こんな日くらいは、調子に乗っても良いだろうと、自分に言い聞かせた。
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