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「どうしたの?」  遥がこちらを見て尋ねる。京介は顔を横に向けて、遥の顔を見た。彼女の唇の薄いピンク色にも、彼の目は反応を示さない。その代わり彼女の顔は、目も当てられないほど眩しく感じられた。美人の比喩ではなく、ほんとうに、午前中見たあの血よりも眩しかった。  思わず顔をしかめる京介を見て、遥は「変なの」と言って笑う。その時、京介は自分がとんでもないことをしてしまったことに気付いた。  もっと早く気付いておくべきだった。 「あっ、見て。綺麗!」  遥が京介の背後に周り、無邪気に彼の体の向きを無理矢理変える。二人の目の前には、幸せなカップルを暖かく見守る、真っ赤な夕焼けがあった。そしてその中央に居座るのは、町の赤色を打ち消してしまうくらい、真っ赤に輝く西日だった。 逆境は全て、乗り越えたと思っていた……。  京介は情けない悲鳴を上げると、背中から地面に勢いよく倒れた。遥は驚いて彼の顔を覗く。  京介は、白目を剥いて失神していた。                   《終》
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