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 京介は、レンズがガラスの伊達眼鏡をポケットに入れてアパートを出た。占いのコーナーの、今日のラッキーアイテムの欄に、眼鏡を持っていると恋愛運が上がると書かれていたからだ。  京介は歩いて数分のところにあるコンビニでバイトをしていた。正直給料はあまり良くないし、店長は自分勝手で鬱陶しい。それでも京介がそこで働き続けるのは、生活のため以外の理由があった。  それは、京介の後輩である新井遥(あらいはるか)がいるからだ。京介は今日にでもこの気持ちを打ち明ける心づもりをしていた。  コンビニへ繋がる横断歩道まであと数歩というところで、青信号が点滅しはじめた。京介は諦めて立ち止まることにした。一瞬青信号が消え、すぐに赤信号になる。  その瞬間、京介は思わず目を細めて顔に手をかざした。赤色に点灯する信号機が、やけに眩しく感じられたのだ。周りの景色に比べて、赤色の信号だけが強調されて目に飛び込んでくる。  京介はついに目を背けた。すると途端に、正常な景色が復活する。だが少しでも赤信号が視界に入ると、それ以外の景色の粒子が薄くなり、勝手に赤色に意識が集中してしまう。  京介はアスファルトの地面を眺めながら息を荒げていた。一体何が起こっているのだろう。京介はさり気なく隣で立っているサラリーマンを盗み見した。サラリーマンは怪訝そうな目でこちらを見たが、すぐに信号機に目を向けた。  視覚障害者用の音響が鳴ったので、京介は顔を上げた。青信号だった。京介はとりあえず安心して、横断歩道を渡り始めた。しかし、車道で止まっている車を見て、京介は思わず声を上げた。  その車は赤色だった。真っ赤な光が京介の目を刺すように襲いかかる。京介は走ってサラリーマンを追い越すと、コンビニに駆け込んだ。
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