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 京介が雑誌コーナーの整理をしていると、レジで翔太が手招きしているのが目に入った。窓ガラスから駐車場の方を見ると、いつもの連中がいた。京介は憂鬱な気分で、レジに向かった。  レジからスタッフルームに入ると、店長がにこにこと愛想笑いをしながら待っていた。 「ああ、滝森くん、ご苦労さま。申し訳ないんだけど、またお願い、聞いてくれる?」  店長は早口にそう言うと、眼鏡をくいっと鼻の上に押しあげた。丁寧な口調とは裏腹に、偉そうに顎を上げて胸を張っている。 「はあ、分かりました」 「うん、頼むよ。ああいうのは本当に迷惑なんだよねえ。こっちは毎日必死に経営してんのに、全く。あいつらはそういう人の気持ちも考えられないのか、全く。ああ、ほんとにもう……」  何でバイトにそれを言うのか。そこまで言いたいことがあるなら自分が言えばいいのに、この腰抜けが。  店長の言う『あいつら』とは、駐車場で円を作っている高校生たちである。と言っても、もちろん普通の高校生ではなく、平日のお昼前にも関わらず、仲間と延々街を徘徊しているような高校生だ。  そういうタイプの連中は、京介が最も関わりたくない連中である。もちろん翔太も遥も、そういう連中と関わりたいとは思っていない。だから店長の指示がある度に、遥を除いた俺と翔太でじゃんけんをするのがお決まりのパターンだった。  しかし今日の京介は違う。遥に良いところを見せて、今日の一大イベントのに備えようと考えていた。それに加えて、朝から迷惑な能力を身に着けてしまったことで、逆に心に火が付いていた。  京介は、この能力は神様からのアドバイスだと思うことにしていた。このシュールな逆境を乗り越えた先には、きっと明るい未来がある。だから今こそ、自分を変えるのだ。
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