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やがて、長くも短くも感じられる五分が過ぎて、まるでおのれのなかにある不埒な感情をあざ笑うかのように七波のアラームがタイムリミットを告げる。ため息をひとつ吐くと、いまだ目覚める気配のない彼の名前を呼びつつ、藤枝はわざと乱暴にその肩を揺すり起こした。
「──ほら、七波、時間だぞ」
「……、ん……」
小さく呻いて、壁際を向いていた七波がこちらに寝返りを打つ。月光に映える白い頬のうえで長いまつげの影がふるえたかと思うと、そのしたから覗いた黒曜石めいた瞳が藤枝を認めてかすかに揺らめいた。
「……藤枝? ……あれ、もうそんな時間?」
「いや、そんな時間って……今、アラーム鳴っただろ?」
「……え、そう? 寝てたから全然聞こえなかった」
「寝てたからって……だったら、おまえのそれはいったい何のためのアラームだよ」
毎度のこととは言え、とぼけた返答に呆れて苦笑すると、ようやくベッドのうえに身を起こした七波がごめん、と照れくさそうに笑う。その笑顔を見たとたん、またしても不穏に乱れる心拍に、藤枝は慌ててそこから視線を引きはがした。
「……もういいから、早くアプリ起動させないと。三時になるぞ」
「え? ……うわ、本当だ。待ってて。今降りていくから」
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