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三時、という時間に敏感に反応した七波が急にあたふたし出すのに、落ちるなよ、とひと言だけ忠告して先に階段を降りる。寮生としてふたりに与えられたこの部屋は、二段ベッドと互いの机を除いたらあとはわずかなスペースしか残らない。
そのすき間に、苦肉の策として敷いたラグマットにそれぞれクッションを置き、互い違いに寝そべるようにして七波のスマホから聞こえるDJの声に耳を澄ませる。深夜という時間帯もあり、あまり音量を上げるわけにもいかず、月明かりだけを頼りにしばし、電波を通じて伝わるもうひとつの音の世界に身を委ねる。
『──さて、季節はすっかり秋本番。せっかくだから天気がいい日は空を見上げて、その高さに驚いてみて。よく移ろいやすさを表現するのに「女心と秋の空」なんて女性蔑視きわまりない言葉があるけど、私からしてみたらそれってむしろ女の懐の広さを表してるんじゃないのって特にこの青空を見ると言いたくなります。ねえ、みんなはどう思う? よかったらご意見お聞かせください。──それではここで一曲。ラジオネーム夢幻さんのリクエストで──』
「さすがはアイラさん。相変わらず、女性ならではのシニカルな視点で切り込んでくるよね」
「……ああ、そうだな」
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