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月さえ赤い
東の空が赤い。それは夕闇によるものか、空襲によるものかは判断が難しい。
ただ、それは遠くの空である。
自らたちの町を見渡せる高台に今年十六歳となる修司は将来を違った綾とその空を見ていた。
「何のために戦争はするんだろうね」
赤い光に照らされた綾の横顔。それを見つめるほどに修司の胸は痛む。
「偉い人たちの考えなんて分からん。どうせ俺ら国民は駒でしかないんだ。生きて帰る保証なんてないしな」
死ぬかもしれん。修司の胸にはその言葉がもやもやと渦巻いている。もうすぐ戦地に赴くことになる。
それを綾に伝えに来たというのに、綾は泣くわけでもなく、しっかりと修司に言葉を伝えてくる。
「修司さんは死ぬつもりなんですか?私も家族も残して」
修司の両親は既に高齢であり、父は持病を抱えていたため兵役を逃れた。
だが修司に持病はないために兵役に身を出さなければならない。
「……できれば生きたい。本当は綾と一緒に生きたい」
赤く染まる綾の顔。その顔にやっと安らいだ表情が見えた。
「なら逃げてください。誰も殺さないでください。生きて帰ってください」
綾のその言葉のあとに涙をこぼしたのは修司だ。
「約束はできん。でも覚えておく」
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