初デート

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夜明け前、階下の物音で目を覚ました。 いそいそと支度をする父の様子が2階にいても手に取るようにわかる。 仕事がある日の朝はあれほど寝起きが悪くて、あと5分、あと10分と懇願するくせに、釣りに行く日は自分でアラームをセットして一発で起きるのだから現金なものだ。 時計を見れば午前4時前。あと2時間は寝ていられるのに、父が出て行くまで二度寝せずに息を潜めて待ってしまうのはどうしてだろう。 ドアの閉まる音と、鍵を掛けてからドアが開かないか確かめる鈍い音が聞こえて、父が出て行ったことを確信する。 寝返りを打って深呼吸をして、やっと瞼を閉じた。 きっと母も同じような朝を何度も過ごしたのだろう。いや、母は父が出かける時はどんなに早朝でも玄関で見送る人だった。 父は子育ても家事も一切手伝わず母に任せっきりで、休日は寝ているか釣りに行くかのどちらかだった。父に遊んでもらった記憶もないし、どこかに連れて行ってもらった思い出もない。 母はそんな父に愛想を尽かして出て行き、一人娘の私が母の代わりに父の世話をするようになったのは小学5年生の時だった。 よく『娘は父親に似た人を伴侶に選ぶ』なんて言うけれど、私は絶対にそんなことはしない。家事・育児を協力してやってくれる人でなければ結婚したくないし、休みの日ぐらいは家にいて家族と一緒に過ごしてくれる人を選ぶ。 今時そうじゃない人を探す方が難しいぐらいだとは思うけれど、残念ながらまだ結婚したいと思うような相手には巡り合っていない。 と言うか……実は今日一緒に出かける国分さんがそんな相手になってくれればいいとは思っている。 いつものように何も言わずに釣りに出かけた父に対してモヤモヤしていた私も、国分さんのことを考えたら自然と頬が緩んで、いつしか眠りに落ちて行った。
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