初デート

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「ほら、10時!」 急に言われて、咄嗟に私が見たのはナビの右上の時刻表示だった。10時? もう11時だけど……。 「海が見えるよ。9時の方」 畳み掛けるように言われて、やっと国分さんが言っているのは方角のことだとわかった。 9時ということは私の左横ということだ、と気付いた時にはもう松の防風林に隠れて海は見えなくなってしまっていたけれど。 「9時とか10時とかって、面白い言い方をするのね。軍隊みたい」 私がそう言うと、彼の方がビックリしたように目を瞠った。 「え? そう? 俺の家族はみんな言うけどな。例えば上手いラーメン屋を探してたとして、誰かが見つけて『あそこにある!』って指差しても、運転手はその指差す方を目で追うことは出来ないだろ? 右斜め前方って言うよりも2時の方角って言った方が瞬時にわかる」 「確かにそうね。私はほとんど車に乗らないから、そういう言い方をするって知らなかっただけなのかも」 うちの車は父が釣りに行くときのためのものであって、私が乗ることはない。通勤も買い物も、バスや電車に乗れば困ることはないから。 「じゃあ、ちょっと練習してみようか。1時には何がある?」 国分さんがそんなことを言い出して、私は何時の方角に何があるか答えることになった。クイズみたいでちょっと楽しい。 1時の方角に焼き肉屋、4時の方角にコンビニ、8時の方角に郵便局。咄嗟に答えられないと、もうそれは8時ではなく7時になっていたりする。 「慣れないと結構難しいね」 「そのうち慣れるよ」 そんな言葉に期待してしまう私がいる。国分さんもこんな風にまた2人で出かけたいと思ってくれているんじゃないかって。
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