彼の趣味

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「俺は君を置いて行ったりしない。どこへだって連れて行く。手始めに来週、ここに釣りに来ないか?」 「一から教えてくれる?」 「もちろん! それで君が慣れてきたら、今度はお父さんも誘って3人で釣りをするっていうのはどうかな?」 思わず足を止めて彼を見上げると真剣な顔をしているから、冗談ではなさそうだ。 父と国分さんと私とで、一緒に釣りをする? それは何だか緊張してリフレッシュできなさそうだけれど、彼はそれでいいのだろうか。 「うちのお父さん、相当な気難し屋よ?」 「だったら尚更。俺という人間を知ってもらって、大事なお嬢さんとの交際を認めてもらえるように時間をかけないとね」 「ありがとう。よろしくお願いします」 国分さんの誠意が嬉しくて、差し出された手に手を重ねた。てっきり手を繋ぐのかと思ったのに握手してきた彼の生真面目さが愛しくて、私が笑いを零すと彼も嬉しそうに笑ってくれた。 お昼はシーフードレストランに行くことになり、また私たちは車上の人となって方角クイズを再開した。 「1時は?」 「回転寿司!」 「じゃあ、3時は?」 3時は……。 「国分さん!」 「……そうだね。当たり」 彼は優しく笑ったけれど、私はすぐに自分の間違いに気付いた。 「今のは間違いよね? 国分さんから見て3時の方角なんだから、えっと……リサイクルショップ!」 「それも正解だけど、さっきのも間違いじゃないよ。君の3時の方角には俺がいたいし、俺の9時には君にいてほしい」 国分さんの言葉に私は思わず泣き出してしまい、彼は慌てて車を停めて私の背中を擦ってくれた。 ――ずっと一緒だから。 ――大丈夫だよ。 そんな優しい囁きは私の涙を一層溢れさせて、出来ることなら母にも彼を紹介して安心してもらいたいと思うのだった。 END
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