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「おはようございまーす」と、ひときわ元気な声で挨拶をして中に入ると、四日ぶりのお店は、若干ザワついていた。しかも、さっきまで話をしていたはずなのに、柚希が出勤した途端ピタッと会話がやむ。  店の様子に首を傾げながら、コートとマフラーをハンガーに掛けていると、背中に視線を感じた。  なんとなく居心地が悪かったため「えっと、私なにかヘマしましたか?」と、振り返って訊ねた。すると「えっとぉー、ユズちゃんは何もしてないんだけど……」と言いながら女の子は、横にいた店長の服を引っ張った。柚希はその様子に、眉をひそめた。 「……ねぇ、店長」  嶋津に助け船を貰おうと、女の子は嶋津の目を見ながら少し甘える声で強請る。そのやり取りさえ不快に思え、眉間により深い皺を刻んだ。嶋津は深い溜息を吐き「あぁ、わかった」と口を開いた。  嶋津の話はこうだった。この4日間、毎日のように柚希を訪ねてきた男がいたこと。初めは、外見的特徴しかオーダーで聞くことが出来ず、別の子を接客につけたら不機嫌になってしまったこと。しまいには、チェンジを繰り返した挙句「お前じゃ眠れない。それで、お金を取っているのか? 大したことないな」と暴言を吐いたということだった。  ――ま、さか……。  自分が今まで接客をしてきた中で、そんなことを言う人って。柚希は、一つの結論に達して、目を(しばた)く――きっと、『眠れない』という人は〝佐々木雅人〟しかいない。 
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