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「なぁ。聞いてもいいか?」  柚希は、不安な顔をしながら佐々木を見た。 「さっき、避けているって言っていたが、俺はなにかユズを傷つけることをしたのか? それなら、謝らないといけない。お前が仕事を辞めないといけないことが俺のせいだとしたら、なおさら」  佐々木の目を一瞬見てそらす。  佐々木は悪くない。すべて自分のこの恋心のせいなのだ。既婚者に恋してしまった自分が……──。 「いえ」 「こんな所じゃ話にくいか? 静かなところにでもいくか?」  フルフルと頭を振る。 「でも、お前は黙るし、こんな所で話していても埒が明かないだろ」  自分の足元に視線を落とし、自分が佐々木を避けるきっかけになったあの出来事を思い出す。柚希は、きゅうっと痛む胸に手を添え、苦し気に顔を歪めた。でも、ここで口にするわけにはいかない。 「お前は何を悩んでるんだ? 俺を避けるくらいだ、俺のことだろ? なぁ?」  逃げ場の失った柚希は、深い深呼吸をした後「ゆ……びわ」と呟いた。
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