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「指輪? なんだそれ」
「左手の薬指!」
そういうと柚希は、佐々木の左手の薬指をギュッと握って引っ張る。
急な柚希の行動に佐々木は目を丸くし「は?」と驚きの声をあげた。
「結婚しているなら、こんなところに来てないで、家で奥さんにひざまくらをしてもらえばいいのに」
「誰が?」
決定的な証拠があるのに、まだしらばっくれるのかと憤る。
「佐々木さん。俺、見たんだから。カフェでモデルみたいな女の人とお茶しているの」
「モデルみたいな女? しらんな。あと、俺は、結婚してないぞ」
「でも! 俺は左手の薬指に指輪してるの見たんだ」
「あっ」
思い出したように声を上げると、左手の薬指を掴んでいる柚希の指をゆっくりと剥がし、佐々木はポケットからおもむろにプラチナの指輪を出して柚希に見せた。
これ見よがしに見せつけて来る佐々木にイライラした柚希は「ほら、それが証拠じゃん。なのに、結婚してないとかウソつくなんて最低! 奥さんがいるなら佐々木さんに俺は必要ないでしょ」と棘を含んだ声で言う。
「俺には、必要だっていってるだろ」
「奥さんにしてもらいなよ。もう俺、こういう仕事辞めるんだ。普通のバイトをするから、もう会うこともないと思う。店長から助けていただいたことには、感謝しています。ありがとうございました!」
丁寧にお辞儀をした柚希は、大通りに出るために佐々木の横を通ろうとした瞬間、肩を強い力で掴まれ、壁に追いつめられる。
「──……ッ」
佐々木の顔を見ると、眉間に皺を寄せ顔を紅潮させながら震えていた。
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