6-2

6/10
前へ
/69ページ
次へ
「ダメだ」 「はい?」  何がダメだと言うのだろう。今、自分が壁に追いつめられていることも、ひざまくらを拒否したことに怒っていることも意味が分からない。  佐々木にはそんな権利は無いはずだ。 「俺と佐々木さんは、店員とお客さんの関係です。なのに、なんで怒ってるんですか?」 「俺が眠れないままになる」  そんなの知ったことじゃない。それなら、その指輪の相手にしてもらえばいいじゃないかと、じっと佐々木の目を見つめた後、柚希はうんざりした顔で嘆息する。 「俺に関係ないですよね。そりゃ、眠ることが出来ないのは大変だとは思いますけど。でも、奥さんにしてもらったらいいじゃないですか」 「そんなのはいない」 「はぁ? なに言ってんの? 結婚指輪をして、結婚していないっていう嘘がまかり通るとでも思ってるわけ?」  つい口調も厳しくなる。一度口を開いたら次から次へと言いたいことが出てきて止まらない。 「だから、ひざまくらでも添い寝でも、奥さんにしてもらえよ。俺は、あんたとは関係ないし、店を辞めたら寝かせる義務もないわけ。じゃあね!」  肩を掴まれていた手を払い、今度こそ佐々木の前から逃げようと思った。  自分は、都合のいいまくらじゃない。心の通った人間だ。好きだったこの気持ちを踏みにじられたくない。せめていい思い出で、終わりたかった。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1877人が本棚に入れています
本棚に追加