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「でもな、片付けられないのは置いておいて、自分の性格からして、ユズが働いている店に行くのは躊躇したんだよ、実際」   キッチンでコーヒーを用意していた佐々木は、手を止め視線を柚希に向ける。 「今まで、風俗にも行ったことないし、真面目に働いてきた。それに、人の道に反することは、なにより嫌いだったし、な」 「でも、あのお店は、性的なサービスは一切していないですよ」 「あぁ。知っている。でも、全部同じだと思っていたんだよ」  それなのに、柚希に会うために佐々木が嫌悪する場所に、足しげく通ってくれていたというのか。 「真面目な人が、なんで俺が男と知っていても、来ていたんですか?」  コーヒーをテーブルに置き、佐々木も柚希の隣に座る。 「人は、欲求に勝てないのが身に染みてわかったんだ」 「欲求です……か?」 「三大欲求って知っているだろ?」  食欲、睡眠欲、性欲──あらゆる動物が、生存本能として持っているものだ。栄養や睡眠を採らなければ、死んでしまうし、生殖活動を行わなければ、種の保存や繁栄は出来ない──……もちろん知っている。だが、それがなんだというのだろう。
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