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「睡眠欲をユズで満たされてから、俺はもうダメだった。あの幸せで満たされた時間が欲しくて堪らなくなった」 「俺、男だけど」 「ん? 性別は関係ないぞ。ユズと接していく度にいい子だなって思ったし。それに、愛おしくて、俺だけのモノにしたいって思うようになって……」  次々と出てくる甘い言葉に、柚希は恥ずかしくて真っ赤に染まった顔を隠すように俯いてコーヒーを飲む。 「それにな、実は声を掛けてくれたあの時、すごくお前からミルクのような甘い香りがしたんだよ。それも不思議でさ」  ──ミルクのような甘い香り?  はっとして佐々木を見上げる。 「それも、睡眠を誘発したのかなって」  柚希も、佐々木を膝の上に載せた時に、甘い香りを感じていた。いままでどんな男の人を膝の上に乗せてもなにも感じることはなかった。それなのに、もう一度その匂いを嗅ぎたくて、また会いたいと思ったのも佐々木が初めてだった。  匂いの質は違えど、佐々木も甘い匂いを感じていたというのだろうか。 「お、俺も……」 「ん?」 「俺も、初めて会った時、佐々木さんの匂いが甘くって香水をつけているのかなって思って。俺、聞きましたよね?」 「あぁ。その時、何もつけてないって、言ったよな。そうしたら、お前は首傾げていたっけ」  気のせいだと思っていたのだ。もしかしたら、この時から自分たちは惹かれる運命だったのかもしれない。少しの偶然と奇跡が嬉しくなり、柚希は微笑んだ。 「──……えっと。今日は、そんなつもりなかったんだが……」  少し歯切れの悪い口調の佐々木は、小さく息を吐いて呟く。 「今、キスしたい」  急な申し出に柚希は、目を丸くした。しかし、佐々木の顔は真剣だった。 「佐々木さん眠くないの?」 「睡眠はあとでたっぷり取るから。ユズがいつものように俺を寝かせてくれるんだよな」 「そうだけど……」  佐々木が整った顔貌を近づけてきて唇を塞ぐ。軽く唇を吸われ優しく抱き寄せられた柚希は、佐々木の胸に顔を埋め「俺、まだ承諾してませんけど?」と、少し不貞腐れたように言った。 「ごめん。我慢できなかった。俺はお前に、嫌われたり、避けられるのが一番堪えるから今後は気をつけるよ」  そう言いながら、佐々木は微笑んだ。
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