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7-3
すやすやと横で寝息をたてている佐々木を柚希は穏やかな顔で見つめていた。何度見ても、整った顔をしていてカッコいい。そんな人と自分は、セックスをしたのかと思い、顔を赤らめた。そして、だいぶ乱れてしまったと反省をする。
この逞しい腕で抱きしめられたときは、こんなに温かくて幸せなものがあるのだと、驚き、そして戸惑った。
──こんなの知ったら、もう離れられないな。
そう思っていると、身じろぎした佐々木が「起きていたのか」と眠そうな目をしながら声を掛けてきた。
「はい。なんか、幸せで」
「幸せ?」
「俺、きっと恋することもなく、家族を作らずに一生を終えるって、思っていたんですよね。でもダメですね、佐々木さんの温もりを知っちゃったら」
すると、佐々木は片眉を寄せ思案するような表情を浮かべる。柚希は、その表情が何を意味するのか分からなく怖くなり硬直した。
──抱いてみたら違ったとか?
ぺたぺたと自分の体を触る。骨ばって柔らかくなくて、子供みたいで色気もない。あっという間に不安に押しつぶされそうになる。
「ごめんなさい。やっぱり、違いました? 1回ヤッたからって彼氏づらしないし、セフレはちょっと体の負担あるから難しいけど、ソフレ……添い寝フレンドには、な……なれ」
泣くつもり無かったのに、瞳に涙が溜まる。
──まずい。
ここで泣いてしまうと心配されてしまうと思い急いで掛け布団を被ると、ガバッと剥がされてしまった。
「俺は、そんなに薄情じゃないぞ。柚希の初めてを貰ったんだし、責任はとるつもりだ。それに好きって言っただろ」
責任ってなんだろうと、内心首を傾げていると佐々木は、真面目な顔をして続ける。
「重いって思われるの嫌だから、いうつもりなかったんだけどな……」
「なに?」
「ユズ、引くなよ?」
「ひく? なんで……」
佐々木は、はーっと長い息いて柚希の目じりに溜まった涙を人差し指で拭う。
「なぁ、これからお互いのことを知っていく中で、やっぱりお前が俺のことが必要で、俺もお前のことが必要だって思えたら、養子縁組をしないか?」
寝ていた身体を起こし、柚希は目を瞬く。
「よ、養子縁組? お、俺と?」
「柚希を一生俺のモノにするために法律を使うのは卑怯だけどな。それでも縛り付けたいって思うくらい好きだ」と、苦笑しながら柚希の柔らかい髪の毛を撫でた。
想像していなかった提案に言葉を失うも、すぐにそれは嬉しさに変わった。柚希は、そのまま蕩けるような笑顔で抱きつく。
「ほんとに? 俺の家族になってくれるの? ご飯も作れて掃除も出来る俺は、優良物件だと思うんだ。だから、佐々木さんに必要って思ってもらえるように頑張る!」
「これで胃袋まで掴まれたら、ますます俺は、お前から離れられないな」
クスッと笑いながら佐々木は「あとはセックスでお前が俺の性欲を満たしてくれたら完璧だ」と言った。
「ちょ。何言って」
「だって、三大欲求を満たされたら、俺は柚希によって生かされているってことなんだろ」
感情を表すのが下手と言っていた佐々木が甘い言葉を連続で吐くということに戸惑いつつも、つい嬉しさで顔がにやけてしまう。
それを隠すように「他人任せすぎますって! ほら、とりあえず起きてあの汚いリビングの掃除から始めましょ」と、頬を膨らませる。
「俺の恋人は厳しいな」と佐々木は苦笑して、柚希の膨らんだ頬にキスをした。
<終わり>
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