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ビター・スゥイート・ホーム
カタッという物音に、振り返った柚希は瞠目した。
今日は、7月31日水曜日の18時。
彼氏の佐々木は、月末だから帰りが遅いと聞いている。なのに、物音がするなんて思ってもいなかった柚希は、ゾクリと悪寒が走った。
ーー俺、鍵閉めたっけ?
確か、昼過ぎにこの家に来て、それから一週間分の洗濯や掃除を終えて……そして、どうしたっけ。
家に入ったとき、玄関のドアの鍵を閉めていたか急に不安になった。
もし、泥棒だとしても、家主が帰宅していそうな時間に来るものなのかと首を捻る。
「と、とりあえず、なんか武器になるもの……」
急いで、キョロキョロと周りを見渡す。そして、ゴミ箱の中にあるものに手を伸ばし掴んだ、その時ーー。
「雅人?」
その言葉に、屈んでいた体を起こし振り返えった。
ーー女の人?
長い髪を掻き上げ、眉間に皺を寄せたモデルみたいな女性が佇んでいた。
どこかで見たような既視感に目を瞬かせる。
「あ、あんたこそ、誰だよ」
値踏みするように目線を動かしながら、不機嫌な声で言う。
含み笑いをしながら女は、柚希の頭からつま先まで嘗めるように見る。
「ま、いいわ。とりあえず、その武器にもならないもの捨てたら?」
柚希の右手に握っているものを顎で示す。その視線の先を追って自分の右手を見ると、サランラップの芯だった。
気が動転してたからとはいえ、なぜこんなものを握ってしまったのだろうか。再びゴミ箱に投げ入れた柚希は、目の前の女を睨みつける。
――なんなんだよ。
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