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「もう、これ返すわね」
テーブルの上に鍵を置く。
「え、これ。美玖さん、倉庫でこの家使ってるんじゃ」
「ないない」と、笑いながら顔の前で手を振る。
雅人を横目で見るも、腕を組んで目を閉じているだけで、なにも言葉を発する気配がない。
「え、じゃあ、なんで」
「たまに見かねて、部屋掃除に来てたのよ。リビングとか凄い惨状だったでしょ」
初めてこの家に来た時を思い出す。
確かに、凄い惨状だった。
普段きっちり几帳面な様子なのに、リビングとキッチンは散らかっていてーー。
「掃除に来てたの。離婚したとはいえ、雅人のことは嫌いじゃないし、仕事ぶりは尊敬してるしね。もう、それもおしまい」
「あぁ。ほんとに今まで世話になったな」
「ほんとよー。まぁ、今度は柚希くん入れて三人で美味しいものでも食べに行きましょ」
柚希は、テーブルの上に置かれた鍵を手に取り、美玖はこの鍵を手放して本当にいいのだろうかと考える。
今まで雅人のために尽くしてきたのに、こんな風に終わらせていいのだろうか。
「いいんですか?」
「ふふふ。いいもなにも、もう柚希くんがいるんだもの。私も、柚希くんみたいなかわいい子見つけようかな。お金だけはあるもの」
美玖は、そういうと豪快に笑った。
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