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「──これ、なんです?」  差し出されたお金に視線を落とし、まだ会計もしていないのにと、佐々木の乱暴な態度に不快感が増す。 「サービスのお金だ。少ないのか?」 「いいえ。多いくらいです。一時間なので、基本料金7,500円と、膝まくら1,000円と消費税で、9,180円で。おつり……」 「いらない」 「え?」  少しでも、目の下のクマが薄らいだらいいと思って半ば強引に連れて来た。眠ることの出来なかった佐々木が寝息をたてはじめると、『この仕事をしていて良かった』と、とても幸せな気分になれたのだ。  ──それなのに。 「膝、借りて悪かったな。じゃあ、俺はこれで」と言うと、柚希の前に2万円を置いて立ち上がった。 「あ、あの……」  つい、引き留めてしまう。オロオロと視線を泳がせていると「なんだ?」と、冷たい声と冷たい視線が頭上から降ってきた。佐々木の顔を見た瞬間、次の言葉が紡げないまま黙ってしまう。  柚希のその態度に呆れたように溜息を吐き「じゃあな」と言いながら、水色の扉を開けて出て行ってしまった。  強引だったのが裏目に出てしまったのだろうか。でも、あの時はどうしても連れてきたかった。少しでも自分が力になれたら幸せだと思ったのだ。今となっては、ただの自己満足だったのだけれど。  じんわりと瞳が濡れていくのを感じながら、近くでクシャッとなっていた佐々木の匂いが残っているブランケットを手に取る。柚希は、顔に近づけ鼻から息を思いっきり吸った。 「あの人、すごく甘くて優しい、いい匂いだったのに残念だな……」と、閉まった水色のドアを見つめながら呟いた。
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