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6
和真はカチリと、眼鏡の位置を直す。
「この屋敷は長い間、放置されていた。しかし、最近になって、宿泊型の謎解きゲーム会場の候補地にあがった。それを利用して当時、犯人の顔を見ていたきみは、犯人に参加するよう脅迫をしたんじゃないかな?」
「ちょ、ちょっと待てよ! 犯人の顔を知っていたならなんで警察に言わなかったんだよ!」
「さっき言っただろう。芦屋さんは恵子を助けるためとはいえ、人を殺している。状況が状況でも、罪に問われる恐れがある。だから言わなかった」
和真の推理に、美月は俯いてなにも言わない。
「美月? どうして黙ってるの?」
恵子が尋ねるも、美月は答えなかった。
「なぜ、罪を重ねた。ここでの事件を起こす前に、どうして警察に言わなかったんだ。時効は無いんだ。やつらを法で裁けたんだぞ!」
和真が怒鳴る。
「……ばっかじゃない」
「なんだと?」
美月がゆらりと立ち上がり、顔を見せる。
そこには今まで浮かべていた恐怖は無く、目を見開き、歪んだ笑みを浮かべていた。
「事件当時、子供だった奴の言葉を、大人が信じると思う? 十年もたっていれば、記憶だって曖昧って言われるのがオチよ」
「そ、そんなの言ってみなきゃわかんないだろ! 当時の証拠だってあるだろうし、殺さなくたってよかっただろ!」
叫ぶ裕也に、美月は冷めた目を向ける。
「うるさい! 真っ先に逃げ出した臆病者が!」
事実を突きつけられ、裕也は黙り込む。
「それに、揉み消されるだけよ。だって主犯は警察関係者の、上のほうに地位にいるやつの息子だもん。だから、あの時も捕まらなかった」
「「っ!?」」
和真と裕也が息を飲む。
「悔しかった。悔しくて、悔しくて堪らなかった。どうして、パパとママが殺されなきゃいけなかったの? どうして旦那様と奥方様が、殺されなきゃいけなかったの? どうして、恵子ちゃんがあんな目に遭わなきゃいけなかったの?」
呆然と美月を見上げる座ったままの恵子。美月はそんな彼女の頬を、優しく撫でる。
「わたしが恵子ちゃんを守らなきゃ。だって、恵子ちゃんがわたしのご主人様だから。そう思って、恵子ちゃんに馬乗りになっていた奴を刺したの。何度も。何度も! 何度も!!」
フフフッと、美月は笑いながら天井を仰いで両手を広げた。
「痛い。やめろ。殺さないでくれ。助けてくれ。あまりにも無様で、思わず笑っちゃった! でもあのとき殺せたのはそいつだけ。だから、今回のイベントを利用した。わたしは全部知ってる。ばらまかれたくなかったら、参加しろって」
「……狂ってる」
呟く和真に、美月の狂気に満ちた瞳が向けられる。
「なんで? だって悪いのはそいつらだよ? なんの罪もない、ここの家の人たちを殺したんだよ? 法が裁いてくれないなら、わたしが殺るしかないじゃない」
「違う。きみは人を殺すことに、楽しさを覚えたんだ。だから無関係な参加者まで殺した。今までも、公になっていないだけで、殺人を犯してきたんじゃないのか!?」
「そんなのあんたに関係ない」
美月は吐き捨てるように言う。和真は冷や汗を流しながらも、動揺を悟られないように、拳を握りしめる。
「僕たちを、どうするつもりだ」
「どうする? アハハハハッ!」
突然、狂ったように笑いだす美月。
「殺すに決まってるでしょ! 家にいなかったおまえも! 真っ先に逃げ出したおまえも! あれからわたしの人生は狂ったのよ! だから全部、壊してやるのよ!!」
ボーン、ボーン、ボーン。
柱時計が3時を知らせる。
「さあ、時間だよ」
美月はにっこり笑う。
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