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「なにか、拾ってる…?」
桜が首をかしげる。よく見るとおばあさんは落とした無数のオレンジを拾ってるみたいだ。
「まわりにいる人、拾ってくれないね…?」
おばあさんの近くにいる人はおばあさんが目に入っていないかのように無視して去っていく。忙しそうなサラリーマンも、おしゃべりに夢中な女子高生も。
おばあさんは震えるちょっと不自由な手で大きな駕籠に一生懸命入れている。
「あ…」
入れ損ねたオレンジがまた転がっていく。おばあさんは悲しそうな顔してため息をついた。
「桜、柏。手伝ってあげよ」
私たちはオレンジを拾うのを手伝った。集めるのはすぐ終わったけれど、オレンジの入った駕籠は相当重い。なぜこの量を一人で運ぼうとしたのか不思議なくらいで、おばあさんは何度もお礼を言い、一人でまた頑張って運ぶと言うけど心配だから私が運ぶことを申し出た。
「ほんとに、ありがとね」
おばあさんの家は立派な日本家屋だった。
「あれ…」
珍しい・おばあさんは氷室さんらしい。表札に氷室と書かれていてちょっと驚く。この辺りでは見かけない苗字。
「いや、」
うちのクラスにいたよね、そういえば氷室。
氷室良。うちのクラスメイトの男子の顔が浮かんだ。
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