この暗闇に、手を差し伸べてくれる人

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この暗闇に、手を差し伸べてくれる人

縋るように掴んだ指先から、まるで伝導するように全身を熱が駆け回る。 どくどくと打ち響く鼓動は、周囲に音が漏れているんではないかと心配になって。 ふるふる震える全身は、抑えられない不安を表していて。 ここが食堂で、いままさに俺を憎む視線が止む気配もなく一点へと注がれていることも知っている。けど、それを意に介せるほど俺は強くない。不安と恐怖で今にでも押しつぶされそうだった。 ぎゅう...とさらに強く握った裾に皺が寄る。指先は小刻みに震えていた。 「......いや」 目の前が真っ暗になって、頭の中がすうっと冷めていった。 「言ったはずだよ。俺は主要人物になる気はないって。」 「.....」 「俺はさ、面倒ごとには関わりたくないんだ。」 「......っ」 「それに...」 「も、いい...!もう、わかった、わかったから....」 それ以上、拒絶しないで。 「わか、わかったから...っ」 舞い上がってた。七宮の話しを聞いて、もしかしたら、三谷瀬なら、暗闇の中から救い出してくれるのではないか 味方になってくれるのではないか、そう自惚れた挙句期待してしまった。 そんなわけ、ねえのに いままで散々思い知ってきたはずなのに、俺に味方なんていないことくらい、痛いくらいわかっていたはずだった。 (.......それでも、) 三谷瀬には、好きなやつにだけは、拒絶されたくなかった がくがく震える全身で、最後の力を振り絞ってずっと掴んでいた三谷瀬の裾から手を離そうとした、とき 「...それに、あんた見てるとイライラするし」 三谷瀬に手首を掴まれた。 辿っていくと、見惚れるくらい整った三谷瀬の端麗な顔で その表情を視界に捉えた瞬間、胸がざわついた。 (.....わらって...) すごくすごく優しい表情だった。 「だけどそう思い続けられないほどには、かわいいってことに気づきすぎた」 「.....ぇ」 わからない?そう言われて、またくつくつと笑われた。 「いいよ。あんたを、助けてあげる」 真っ暗になった頭の中で、三谷瀬の言葉がただただ反芻する。喉元が震えてばかみたいに立ち尽くすことしかできなかった俺を、不意に、だけど壊れ物を扱うように優しく、三谷瀬は引き寄せた。 「よくがんばったね」 そう言って、さらに強く抱きしめられた。 互いの身体が触れ合った瞬間、咄嗟にびくりと身を震わしてしまったが、背中に回された手がまるであやすようにぽんぽんと繰り返すその心地よい律動がひどく安心できたから、強張っていた全身の力を抜いて、三谷瀬の肩口に顔を埋めた。 「......みやせ」 「うん」 「みやせ、みやせ」 うりうりと顔を摺り寄せて、まるで子供のように舌足らずな口調で三谷瀬の名前を呼べば、返事の代わりに自分を抱きしめる力が強くなった気がした。 本当はずっと、誰かにこうしてほしかった。 『結ちゃん』 少し前までは当たり前のように見ていた花が綻ぶようなあの笑顔と、当たり前のように耳にしていたこっちがむず痒くなるくらい優しい俺を呼ぶ声が脳裏に過ぎった。 (ごめんな、凌汰) あのとき誓ったこと、ぜってぇに泣かないって決めたこと、守れそうにねぇや 人間、どうやら優しくされると心まで脆くなっちまうらしい。じわりと滲む視界にゆっくりと目を閉じて、三谷瀬の背中に手を回し幼子のようにしがみついた。 いままで溜めて溜めて、ひとりで抱え込んでいたものが音を立てて崩れ去り、ぼろぼろと涙と共に三谷瀬の肩口を濡らした。 「みや、せ....!」 辛かった、恐かった、ひとり取り残された暗闇は右も左もわからなくて、あるのは蔑む声と憎悪だけで苦しかった。 「う...ぁ...、っく」 絶望と恐怖で死にそうだった心が、少しずつ蟠りを溶かしていく。 もういちど頭を撫でられて、その後小さく「おつかれさま」と言われて、じんわりと胸が温かくなった。 光の暖かさに、ようやく俺は暗闇から目を覚ますことができた。
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