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「--ー以上を各自、委員会で共有するように。それではこれにて解散だ。」
おつかれ、と会議を閉めれば途端に沸き出す生徒たちを尻目に、急ぎ足で会議室を出る。
なんとか無事に終わったか。
やはり進行中、俺が嫌いなのを隠すことなくこちらを睨むやつらはいたが、委員長に任命されるだけあってどいつも責任感とプライドは持ち合わせているらしい。私情と仕事はきちんと分けて会議に臨んでくれたおかげで、今日中に決める必要のあった案件も決まったし、ひとまずは一安心だ。
一時はどうなるかと思ったが、とりあえず会議が滞りなく終わってくれてよかった、とほっと胸を撫で下ろした。
さてと。生徒会長としての仕事はここまで。あとは俺個人としての仕事だ。
一日中、常に頭の片隅にあった物事を払拭するため、俺は踵を返した。
「みゃ、みやせはいるかっ、」
「みゃ?」
しまった、噛んだ。恥ずすぎるっ。
三谷瀬を呼び出してもらおうと、適当に教室の入り口近くにいるやつに声をかけたが失敗してしまった。
まさか一般生徒の前でこんな醜態晒すとは…い、いや違う、噛んだのはべつに緊張しているからでは…!久々に三谷瀬に会えるのが嬉しくて、でも少し緊張もあって、だから噛んでしまったとか、そういうわけでは決してない!断じてない!
「あー…三谷瀬くんなら……」
「中庭のガーデンテラスですよ」
「っ七宮……!」
「お久しぶりです。会長」
にこりと人好きのする笑みを浮かべてそう答えたのは、三谷瀬の親友である七宮だった。答えあぐねている生徒を見かね、安心させるようにその生徒にも微笑む七宮は見かけこそ平凡を絵に描いたような人物だが、その実、中身はかなりの男前なのは周知の事実だ。七宮スマイルを受け、安心したように教室に戻っていったその生徒の頬が赤く染まっていたのを俺は見逃さなかった。
「ガーデンテラス…それはまた、意外だな」
「………」
「まあ、とりあえず行ってみるわ。サンキュな、七宮」
「……っかいちょう、!」
「?なんだ?」
「…いえ、なんでもないです。お気を付けて」
「ああ。いってくる」
いったい、“なに”に気を付けてなのだろうか。
何か言いたげにこちらを見やる七宮にはて、と首を傾げる。しかしすぐに教室の中から七宮を呼ぶ声がして、七宮は名残惜し気に戻っていった。
やっぱり最後まで七宮は何か言いたげな顔をしていた。
気になってちらりと中を覗き込めば、七宮を呼んだであろう生徒とその他数人に囲まれた七宮の姿があった。興奮気に詰め寄る友人たちに圧倒され、困ったように笑う七宮の姿に、駆け足で教室を後にした。
もう、ここには来ない方がいいかもしれない。
『あの会長とサシで会話って…。七宮おまえやべえなー』
『平凡なのは見かけだけで、案外肝据わってるよな。俺だったら絶対むり。なんか恐いし』
『でもさ悪いこと言わねえからあんま人前であの人と関わんない方がいいぞ。お前まで好奇の目で見られちまう。お前だって目立つのは嫌いって散々言ってたじゃんか』
『……………』
俺がいると、あいつらにまで迷惑をかけてしまうから。
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