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ブラックコーヒーを一口含めば、本来の快活な性格が表れると分かっていても、寝起きの姿には心配を抱いてしまう。
心配して、無用で、また心配。寝起きと本来の姿はそれほど違う。人の命を救う仕事は大変で疲労していくのだと、母さんを見ていて実感する。
美味しそうにブラックコーヒーを味わっていた母さんが、「あっ、そうだ」と唐突にマグカップをテーブルに置いた。俺を見る。
「あんた、あれどうなってるの」
「あれ?」
「とぼけるな。椎葉さんの娘さんの件よ」
「ああ、それか。それね。どうなってんのかな」
しどろもどろや泳ぐ目に、蔑みの目を向けられる、はあ、と長い溜め息を吐かれた。
「ドラマや小説のような探偵になりたいんだったら行動しなさいよ」
「したよ。高校時代の同級生に話訊きに行ったし」
「もう一週間も前のことでしょ」
「まだ五日しかたってない」
「五日も一週間も変わらないじゃない。だったら訊くけど、五日間何してたの」
「何って……。そりゃあ、いろいろと。ネットで情報探したり。アカウントがないかって探したり」
「何でネット中心なわけ?自分の足で探せ。楽すんな」
「だって」
「だってじゃない」
言い逃れする前に一喝され、俺は顔を逸らした。寝起きの姿は心配になるが、快活な姿は時たま不愉快になる。
「もっと話を訊きに行きなさいよ。それとも何?大悟は椎葉佳純さんの高校の同級生は一人しかいないと思ってんの?ねえ、そんな高校ある?ある訳ないよね」
「……」
嫌味の多さに不快が押し寄せる。けど的を得ていて、言い返せない。
「一般的な高校なら最低でも三十人はいるんじゃないの?その内話を聞いたのが一人だけってやる気ある?高校行って後輩から辿っていったんでしょ。その行動力はどこいった?三日坊主?息子ながら情けない」
「……言い訳するわけじゃないけどさ」
「前置きがもう言い訳って認めてるようなものだけど聞いてあげる」
上から目線に苛立ちを覚えていたら話が先に進まない。口から小さく息を吐き出して、力を抜く。
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