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時計を見れば午後三時。出された緑茶はすでに飲み干し、集中力も切れて眠くなってきた。
「慧、コーヒー飲みたくないか」
「内線で美香さん呼べば」
「ここおまえんちだろ」
ああそうだった、と慧がつぶやいた。今日の仕事場は丸の内の本社ビルではなく、慧の家だ。
秘書課の美香さんはいないし、ハウスキーパーの佐々木さんは夕食の買い物に出てる。執事(どれだけ貴族だ)の三浦さんは風邪で休み。
慧の家は屋敷と呼ぶにふさわしいスケールで、十を超える大小の部屋と手入れの行き届いた広い庭、地下にはシアタールームまである。
今日はイギリスからの客人が歓談がてら屋敷の庭園を見学に来ている。サポートは慧ではなく、海外部の松岡さんが務めていた。
日本庭園の蘊蓄に長けた松岡さんは、社長の機嫌を損ねることなく接待ができるベテランだ。そんなわけで、俺たちは応接室で待機中。
「慧は一緒に回らなくていいのか」
「庭園の良さがわからない俺が行っても邪魔なだけだ」
「だよな」
肯定すると、おまえだってわかってないくせにと慧が目をすがめた。俺たちの年齢で「和の侘・寂」が理解できるやつがいるのなら、お目にかかりたい。
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