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【理川 優衣side】
「見ましたよね、点数」
わたしは佐原さんに恥をしのんで訊ねた。
「点数。そうだな、詩も読んだ」
「ひゃああぁ」
顔から火が出そうだった。よりによって頭脳明晰な佐原さんに答案と得体のしれない夢想家ポエムを見られてしまうとは。
しかもあわてすぎて目の前で転ぶという大失態。ぜったいパンツ見られた。穴があったら埋まりたい。
「そそっかしいな、落としていくなんて」
まったくその通りです。まぬけすぎます。
「今日は荷物がいっぱいあって、部屋でバッグ開けたら入ってなくて」
予想外のひとが拾い主という悲劇。今後トートバッグはジップつきのものしか使いません……。
「部活は?」
「試験前でお休みです」
予期せぬ事態勃発で、せっかくの早帰りが惨事に。
「三時?」
「いえ、惨事……」
不意に佐原さんがしゃがみ込んでわたしに目線を合わせた。
心臓が。なんの拷問。
久しぶりに会ったら一段と大人びて、ため息が出るほど格好良い。うっかり見惚れて我を忘れそうになる。
「佐原さんは、会社に戻るんですか」
どうにか動悸を落ち着つかせ訊ねると、なぜか答えが返ってくるまで数秒の間があいた。
「違うよ」
「わたし、なにかまずいこと聞いちゃいました?」
「いや、名前覚えててくれたんだなって、ちょっと驚いて。その他大勢にくくられてると思ってたから」
佐原さんをその他大勢にくくる不遜な女子がこの世にいますか?
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