No.26 Wish upon a star

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それから数日したある日。 昼休みに食堂で食事をしていると、松山がやってきた。 あまり食欲のない俺は、わかめうどんを食べているのに、彼は唐揚げ定食大盛りを対面の席で食べはじめる。 「(食欲)旺盛だな」 「まだまだ若いで」 今の俺には匂いでお腹いっぱいだ。 「なんや最近食欲ないんちゃうか?」 「いや、食ってる」 「うどんばっかりやん。食欲ないやろ?」 ないと言えばない。 だけど、体調不良なわけでもない。 「体調悪いんやったら、林檎とか果物はどうや?」 「…林檎」 「そや、買ってきて切ったろか?」 「いや、遠慮しとく」 今林檎を出されたら、確実に浸ってしまう。 …俺っていつからこんなになった? 「あっ、そや。クリスマスの日、予定ある?」 「クリスマス?」 あるわけがない。 「独り身の男が何するんだよ」 「だよな」 松山が笑う。 「俺と国分で行く言うてた、水木と香川行く日詰めたんやけど…」 すっかり忘れていた。 そうだ、出産祝いだ。 「アイツら、クリスマスの日を指名してきたんや。奥さんのいる俺が居るのにやで?」 「クリスマスって、24?25?」 「クリスマス・イブが24で、クリスマスは25や!大丈夫か!?」 もう、どっちでもいい。 俺はうどんをすする。 「年内で他の空いてる日ないかって、聞いたんやけど、ないって。俺ら年末からNYやし、帰国してから行くには枝野さんに遅い言われるし…」 「へぇ…」 松山の話を聞きながらうどんを食っていると、突然会話が止まり、視線を感じた。 うどんから松山に視線を移すと、松山がジッと俺を見てる。 「何?」 「俺、結婚してはじめてのクリスマスやねん。枝野さんはイベントなんて気にせぇへん言うんやけど、奥さんをクリスマスに放置する旦那にはなりたくないねん」 「…うん?」 話が見えそうで見えない。 「俺はクリスマスは東京に戻る」 「そうしたらいい。べつに無理して行かなくても、宅配便に頼めば済むだろ」 わざわざ行かなくても、それでいいだろう。 「お前も行かへんのか?」 「一人でわざわざ行く関係じゃないよ」 「そやけど、同期代表で行ったられへんか?」 「はぁ?」 何で俺が…と言いかけるも、松山にここ最近の水木夫妻の話をしていなかったことに気付く。 「アイツらまた何かやらかしたんか?」 「…」 説明するのも面倒だ。 「まぁ、クリスマスに来いとか、他人のこと全く考えてないなって思ったんや」 松山がクリスマスに拘るのが面白い。 よく考えたら、水木とは直接話す機会は必要だ。 この際、クリスマスでも何でもいいか。 出産祝い渡して、響のことを説明して、もう絶対に関わるなと話そう。 場合によっては、連絡先も消して貰いたい。 どちらにせよ、どこかのタイミングで会わなきゃならない。 「わかった。俺が行く」 「へっ?行きたくないんちゃうんか?」 「ちょっと話したいこともあるから、俺が行く」 「ホンマか?無理してへんか?」 「してない。祝い預かるよ」 響のことで傷心に浸っていたけれど、浸っている場合じゃない。 また今度どんなことをしてくるかわからないあの夫妻を、何とかしておかないと、響に平穏はない気がしたからだ。 何かと響と俺を接触させようとする水木夫妻に、もうそんなことする必要がないことを伝えて、見守れと言おうと思っていた。
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