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予定通りに到着した。
事前に言われていた通りの空き地に、車を駐車して、住所を確認して集合住宅の1室である二人の自宅を訪ねた。
インターフォンを押すと間もなく、水木が勢いよく出てきた。
なぜか水木の顔が緊張している。
「い、いらっしゃい!」
そう言われて、
「おじゃまします」
と返した。
玄関扉半開きのまま、突っ立っている水木。
入れない。
「何なの?入れてくれないわけ?」
何のギャグだよ。
「あっ、いや、入って!」
そう言われて、玄関扉が大きく開き、中に通された。
「わざわざ来てもらって悪いな!」
「話もあったから」
「えっ?そうなの?」
そんな会話をしながら、靴を脱ぎ、すすめられたスリッパを履いて水木に案内されながら中へ進む。
「道混んでた?」
「そこそこ」
玄関から伸びる廊下を歩き、突き当たりの扉を潜りリビングへ進んだ。
「あれ?浅野は?」
「授乳中」
水木はリビングと繋がる和室を指差した。
襖で仕切られて閉ざされている。
上着を脱いだ。
「松山も一緒にと思ったんだけど、クリスマスだからって一端東京に戻った。アイツからのお祝いも預かってる」
上着の内ポケットから預かってきた松山からのお祝いと、俺からの分を合わせて出した。
「これが俺からで、こっちが松山からー」
それぞれ水木に見せて渡す。
「おぉ、サンキュー」
水木は申し訳なさそうにお礼を言って祝い袋を受け取った。
脱いだ上着を三人掛けのソファーの肘掛けに置いて、俺はそのまま腰掛けた。
水木がお茶を入れようとしてくれているのか、カウンターキッチンで作業をはじめた。
話を切り出すのは、浅野と一緒にの方がいいだろう。
「引っ越しの準備は出来た?」
「元々期限も決まってたし、マンスリーで家具も揃ってたから荷造りするほど荷物はないよ」
「さすが独身は身軽だな」
「男一人でそんな荷物あるやついねぇだろ」
水木夫妻のリビングは、東京に住んでいた時と同じで白とピンクに包まれた落ち着かないくらい女子寄りのインテリアだ。
「久々の関西はどうだった?」
「様変わりしてた場所もあったけど、こっちにはこっちの良さがあって、勝手も良かった」
「へぇ」
「まぁ、暫く関西の仕事はないだろうけど…」
「もう少し居てたかった?」
響のことが頭を過る。
「………そうかもな」
「葉山がこっちに居るから?」
水木から響の話を振られる。
何だか心の中を読まれた気分になる。
ただ、わざわざ水木から話を振るか?
もうここまできたら、ある意味すごいと思えてきた。
後ろめたさとか、申し訳なさとかあったら、自ら話は振って来ない。
「お前……前にも話したけど、2度と首突っ込むな」
浅野が揃ってから話したい。
「いや、それは悪かったと思ってる。だからこそ、何もしないわけにはー」
「悪かったと思うなら、関わるな。何もしなくていい」
俺は水木の話を遮断するように被せた。
やっぱり来てよかった。
全然懲りてない。
「いや、でも、葉山、彼氏と別れたみたいだし」
「いつの話してんだよ」
「お前が告白した後の話」
「なんで知ってんだよ…ー浅野からか?…お前ら夫婦には人のプライバシーがねぇの?何でも情報共有するんだな」
一体どこまで把握しているのかもわからない。
「その後、話し合うように言ったから、元に戻ってるかも」
確証はないが、多分あの日話し合って解決してるはずだ。
「はぁ?好きなんだろ?何で仲なんか取り持つんだよ」
「あのなぁ、大体お前らが全部引っ掻き回してるんだからな」
溜め息が出る。
「人の気持ちを勝手に予測して、勝手に伝えて、俺のタイミング無視して響に話したろ?」
「それは、佳世子が良かれと思ってー」
「あんな最悪なタイミングがあるか。大体、人の気持ちを勝手に相手に伝える方がどうかしてる」
あれで全部が狂った。
「じゃぁ、知らなかったことにして無視すれば良かったじゃねぇか」
「響の気持ちにもなれよ。半信半疑のまま、どう対応したらいいか一番辛い思いさせるだろうが」
「だから告白したの?」
「そうだよ」
「断られるとわかって?」
「そう」
「なんで?」
キッチンから真っ直ぐ見つめられて、水木に問い掛けられる。
「響の悩みになりたくなかった」
放置してあれこれ考え込ませるくらいなら、俺が玉砕して問題解決した方が、響の性格上気持ちが楽になるだろうと判断した。
黙って逃げるとか、様子を見るとか、もう響に対してしたくなかった。
「二度と、悲しませたくない。全部取り除いてはやれないだろうけど、少なくとも俺の力が及ぶ範囲では…」
誠実に接したかった。
「そんな見守ってたって、葉山には伝わらないだろ」
水木がこちらに寄ってきて、俺の目の前にしゃがむ。
「いいんだよ」
「なんで?好きなんだろ?何のアプローチもなく、ただ菩薩のように見守ってたって、お前に勝算はないだろ」
やけに熱弁する水木。
「勝算なんてなくていい」
「悟りでも開くつもり?」
「どの面下げて、アプローチなんかするんだよ。俺にその資格も権利もないだろ。どれだけ傷付けたと思ってんだよ」
「それに関しては俺にも罪がある」
それは認識があるようだ。
「だから、2度と響の恋愛に関わるな」
「じゃぁ、ずっとこのまま?」
「お前には話さない。ろくなことにならないからー」
そう話すと、水木はすくっと立ち上がった。
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